物理入門

理学部の物理学科の新入生に対して、物理学を学ぶということがどのようなことなのかを知ってもらうために、「物理入門」という科目を作って成果を挙げたことがありました。1980年代末から90年代にかけての静岡大学における経験でした。

そのときの授業は、半年間、週一回2時間の授業でした。新入生45人を3グループに分け、3人の教官が分担します。授業は、アインシュタイン・インフェルトの「物理学はいかにつくられたか」をテキストに、デモンストレーション(演示実験)と文献購読(英文と和文)から構成されています。

デモンストレーションでは、次のような実験を演示しました:水に浮かんだ微細粒子のブラウン運動、ポアッソン・スポット、複振子のカオス的振動、

英文テキストには、次のようなものがありました:Brawn, Coulomb, Faraday, Maxwell, Einstein, など

和文テキストには、次のようなものがありました:フック、ガリレイ、ニュートン、ハイゲンス(ホイヘンス)など

なお、私が退職に際して行った最終講義の一節には次の文章があります。

1987 年から物理学科の 1 年生に開講した「物理入門」は、良い科目であったと思います。15 人を一クラスとしたゼミナール方式の小人数教育で、科学史的な観点を加え、基礎的実験を体験し、英語のテキストを読む、という有益なトレーニングを入学して最初の半年間に受けることは、学生にとって受験勉強の弊害を除去し、本来の知的刺激に感応する貴重な体験だったでしょう。教養部解体に伴うカリキュラム改訂で、この授業はなくなりました。」(最終講義「常温核融合の物理学への道」より)

http://www.geocities.jp/hjrfq930/NSS/jkymt/jkymt1.htm 

1987年ごろ配った、その講義計画を下に引用します。

 

「物理入門」授業計画

テキスト:アインシュタイン・インフェルト「物理学はいかにつくられたか」*(岩波新書)

授業

テキストの使用個所総頁数

サブテキスト

演示実験

1回

授業内容の説明

 

 

2回

I.大きな謎物語

最初の手がかり

ベクトル       (18頁)

ガリレイ「レ・メカニケ」

複振子のカオス的運動

3回

運動の謎

残る一つの手がかり  (20頁)

ニュートン「プリンキピア」

 

4回

熱は物質であるか

スイッチ・バック   (16頁)

フック「ミクログラフィア」

 

5回

換算の割合

哲学的背景

物体の運動学的理論  (19頁)

Brown “Brownian motion (movement)”

水中の炭素粒子のブラウン運動

6回

II.二つの電気流体

磁気流体

最初の重大困難    (25頁)

Coulomb “Coulomb’s law of force”

 

7回

光の速さ

実体としての光

色の謎

波動とは何か     (17頁)

ハイゲンス(ホイヘンス)「光についての論考」

 

8回

光の波動説

光は縦波か横波か

エーテルと力学的自然観(19頁)

 

Poisson’s pointによる光の干渉実験

9回

III.表示方法としての場

場の理論の二つの柱石 (20頁)

Faraday “Faraday’s law of induction”

 

10

 

場の実在性

場とエーテル     (14頁)

Maxwell “Maxwell’s equations”

 

11

 

力学的足場

エーテルと運動    (33頁)

 

 

12

時間・距離・相対性

相対性と力学     (29頁)

Einstein “On the Electrodynamics of - - - “

 

13

時空連続体

一般相対性

昇降機の内と外    (32頁)

 

 

14

幾何学と実験

一般相対性とその検証

場と物体       (30頁)

 

 

15

IV.連続・不連続

物質と電気の素量子

光と量子

光のスペクトル    (28頁)

 

 

16

物質の波

確率波

物理学と実在     (34頁)

 

 

*このテキストは、学生時代から何回か読み返してきた私の愛読書ですが、テキストとして使って読みこなしてみると、誤訳が気になりました。原文に当たって、特に気になる部分を出版社にお知らせしましたので、最近の版では訂正されているかもしれません。東北大学出身の友人の話では、訳者の石原純が自分の研究室の助手たちにやらせた仕事だったという噂が学内では囁かれているとか。もし、お読みになって理解不能の箇所があったら、自分の頭を疑うより、誤訳の可能性を考える必要もあるでしょう。お問い合わせいただければ、判定資料を提供させていただきます。

 

このウェブページに「物理入門」と題する資料を掲げるに際して、上記の授業を参考にして、より充実したサブテキストを用意することにしました。ここではデモンストレーションを省略しますが、自習するときには、テキストとサブテキストをじっくり読むことによって、物理することがどのようなことなのかを知ってもらえるでしょう。また、講義の素材として用いるときには、デモンストレーションと組み合わせることによって、大学の新入生用の科目として活かしてもらえるでしょう。

サブテキストは、次のものを考えていますが、順次充実させていきたいと思っています。

和文:

「力学の基礎」(ガリレオ「レ・メカニケ」(1599頃)から)

「相対性原理に関する論証」(ガリレオ「天文対話」(1632)から)

「物質の構造について」(フック「ミクログラフィア」(1665) から)

「力学の法則」(ニュートン「プリンキピア」(1686)から)

「光の波動説」(ハイゲンス「光についての論考」(1690)から)

英文:

“Coulomb’s Law of Force” (C.A. de Coulomb) 1788.

“Brownian motion” (. Brown) 1828.

“Faraday’s Law of Induction” (M. Faraday) 1832.

“Maxwell’s Equations” (J.C. Maxwell) 1865.

“Quantum Hypothesis of Harmonic Oscillator” (M. Planck) 1901.

“Principles of Special Theory of Relativity” (A. Einstein) 1905.

“Bohr’s Model of Hydrogen Atom” (N. Bohr) 1913.