日本の読者、友人の皆さんへ、

冬のポートランドから CFRL News No.31 を添付資料としてお送りします。

 34日間の連続降水記録が23日に終って、クリスマスイブ、クリスマス、ボックスデイの三日は雨のない乾いた天気Dry Weatherでした。暮れからはまた雨の多い日々です。11月から4月までは雨期で、それでも1,2月は雨量が比較的少ないとのことです。中部日本の秋の長雨と菜種梅雨とが、ここの雨期の初めと終りに相当するようです。北緯45度の地ですから、太陽のない時の屋外での肌寒さはやはり堪えます。

2年目の歳末・新年を迎えて、ここの歳末風景が見えてきました。

アメリカでは忘年会などはやらないのかと先入見を持っていましたが、物理教室の「忘年会」が12月15日に学部長の家で開かれて、ビックリしました。 Potluck Dinnerと称する持ちよりパーテイ-で、各自が自慢の家庭料理を持ち寄り、ホストは足りなそうなものを用意して、会話を楽しむものです。英和辞典では、「各自あり合せの食べ物を持ち寄って行なうパーテイ-」と書いてあったりしますが、「あり合せ」は少し貧弱に聞こえるようです。

 クリスマスの時期の恒例行事は、「メサイア」と「くるみ割人形」と相場が決まっているように思っていて、いくつかの番組が放映されました。正統的なロイヤルオペラのものに加えて、アイスダンスのくるみ割人形もあり、楽しみました。テレビに関する限り、もう一つの恒例番組がありました。我が家のケーブルテレビは、USオンライン社の一番安い110ドル、10チャンネルのものですが、その一つのチャンネルのWGN(シカゴ)が、クリスマス前の1週間に2種類の「クリスマスキャロル」を組にして、4回放映しました。1本は1947年(?)のイギリス製の”Scrooge”で、もう1本は1958年(?)のアメリカ製の”A Christmas Carol”です。新聞のテレビ欄の評価では、前者が四つ星****、後者が三つ星***でした。都合2回づつ位は観た勘定になりますが、デイッケンズのこの小説はこの時期にふさわしい、心打つ物語です。

「クリスマスキャロル」で思い出すのが、元同僚で静大名誉教授の故渋谷元一博士です。戦前の文理大付属中学出身の渋谷さんは、何かの折に”A Christmas Carol”の最初の一節を英語で暗誦して、その記憶力と旧制中学の英語教育の質を示してくれました。原文によると、次のような文章です。

“Marley was dead, to begin with. There is no doubt whatever about that. The register of his burial was signed by the clergyman, the clerk, the undertaker, and the chief mourner. Scrooge signed it. - - - -

 Old Marley was as dead as a door-nail. - - - - - -“

マーレーの亡霊が出てくる場面の前置きとして、味のある文章ではないでしょうか。なお、スクルージはけちん坊の代名詞になっていて、英語辞書の説明は、次の通りです。

Scrooge (also s-) = a hard, miserly misanthrope.

911日テロの余韻はアメリカ社会に未だ色濃く残っていて、アラブ系留学生の身上調査を全国的に行なうように政府が各州に要請しています。1211日の朝日新聞国際面に、珍しくPortlandが登場したことが、日本の友人の送ってくれたコピーで分かりました。ご覧になった方もおいででしょうが、表題を追っていくと、1/3面位の記事の内容はほぼ推測できます。

「FBIに異議。米オレゴン州ポートランド市警察。「州法違反」とアラブ系留学生の聴取拒否。市長も署長支持。市民は意見二分。「戦争中」でも法無視せず。ポートランド市警察、マーク・クロカー署長。」

こちらの新聞やテレビでも時々報じられていた内容ですが、こうして纏めてくれると非常に分かりやすかったです。

州の歴史を読むと、この州が首都ワシントンから離れていて、一度は独立国的な形態をとったこともある「革新的な風土」の土地柄であることから、このような判断が生まれる素地があると理解されます。なお、州法で末期患者に対する医師の自殺幇助を認める「安楽死法」があるのは、アメリカ広しと言えどもオレゴン州だけだそうです。

 FBIの命ずる法律違反を犯さない態度を公的機関として表明しているのはポートランドだけかも知れませんが、ニューヨークタイムズなどは、ブッシュ政権のこのような態度を痛烈に批判していて、「アメリカ国民よ目を覚ませ!」と訴えています。

僕の大学院と4年生向けの講義”Solid State-Nuclear Physics”が、1月8日に始まりました。聴講学生は学部生2人、院生3人の5人で、講師と聴講のDash教授を含めて7人のこじんまりした講義です。物理学界がこぞって否定している現象を学ぼうという学生がこれだけいるのは、やはり「Portlandだから」なのでしょうか。きちんと勉強させないといけない、とのことなので、宿題や試験の採点に苦労しそうですが、彼らの反応は楽しみでもあります。