日本の読者、友人のみなさんへ。

CFRL News No.20を添付資料としてお送りします。

2000大統領選も、選挙前の予想と異なり、Al Gore副大統領が実質的に勝利を収めましたが、投票に勝って選挙に負けた、というのでしょうか、連邦最高裁の5対4という僅差での、法律的正統性(リベラル派判事)にたいする政治的配慮(保守派判事)の勝利で、副大統領が涙を呑むことになりました。CFの発見物語をくさした本の題名から覚えた言葉を使えば、Butterfly Bush Presidentの誕生という「The Political Fiasco of the Century」を観劇する幸運に恵まれたことになります。

本題に戻って、今回はアメリカの一地方大学の図書館の充実振りをご紹介します。

Portland State University は1946年に創立された新制大学で、学生数15,000、500人の専任教官と600人の事務官がおり、その他に助手に相当する職務は大学院生が、事務職の補助は学生アルバイトが行っています。その付属図書館はPortland State University Libraryが正式名称ですが、別名をThe Branford P. Millar Libraryというのは1959年から10年間勤めた学長の名を記念したものです。Portland Area Library System (PORTALS) に属し、協力して運営しています。(to resource sharing, cooperative collection development, and other collaborative pursuits.) したがって、学生、教職員がオレゴン州の教育機関(at any school in the Oregon State System of Higher Education) の図書館を自由に使うことができるのは、当然のことでしょう。

開館時間は,およそ日曜から木曜が8:00 a.m. - 11:00 p.m.、金土が11:00 a.m. - 7:00 p.m.で、授業のある期間は学生教職員には24時間開館です。授業のない時期には、開館時間が短縮されます。

建物は地下一階、地上5階です。外形は、長径140メートル、短径70メートルの角張った長円形で、中心に直径20メートルの丸い穴の空いたドーナツを考え、それを7個積み上げて、半裁したものです。内周に沿った中心部は、入り口(1階)およびソファのある休憩スペースになっています。階段とエレベータはその外側にあり、さらにその外側が開架書庫および閲覧スペースです。言うまでもないことですが、建物内はどこも禁煙です。

この図書館の蔵書数は約百万冊で、その90パーセントはon-line catalogで検索できます。残りの10パーセントは1977年以前の資料と他国語の資料だそうです。

利用してみて最も感心したのは、雑誌の配架・整理法と不所蔵資料の利用法でした。

理学部関係では、この大学には環境学部としてドクターコースがあり、したがって物理学のスタッフは10人しかいません。それでも雑誌はNuclear physics A, Physical Review, Physical Review Letters, Solid State Communications, etc. が揃っており、Journal of Physical Society of Japan(J.P.S.J.)までとっています。これは、上記のPORTALSと関係した政策で、他の図書館と分担しているのでしょう。

予算が減ったから今度はどの雑誌を切ろうか、という議論をしていた現職時代の光景を思い出します。日本で、例えば静岡県内の大学が協力して、PORTALSのような組織を作るためには、国立、県立、私立などの設立形態による縦割りでなく、地域の高等教育機関としての役割を主にした組織を創り出すことが必要なのでしょう。独立行政法人化というのは、一つの契機として使えるのかもしれません。

そんなに多くの雑誌をとっていたのではスペースが心配ですが、感心したのはその整理法でした。例えば、Physical Reviewは1970年以前のものはStorageにしまってあって、要求があるとほぼ1日で出してくれます。J.P.S.J.なども開架には出ておらず、Storageにあります。この配架方式は合理的で、見習う価値があるでしょう。

この大学の専門学科が限られているために、所蔵雑誌が限られているのは仕方がないのですが、ここにない雑誌や図書はどのようにして閲覧できるのか、が問題です。そこが又便利になっていて、相互に協力し合うのがPORTALSの方針なのでしょう。他の大学の図書館から約1週間で無料でコピーを送ってもらえます。例えば、Nuclear Physics B, Fusion TechnologyはOregon State Universityにあるので、1階の相互貸借課the Interlibrary Loan Departmentに申し込むと手配をしてくれます。図書についても、他図書館からの借用が可能とのことですが、まだ利用する必要が生じていないので、借用期間その他は不明です。

学生の図書館利用についても、その他の大学関係の事務的手続きと同様に、コンピュータ利用が主流です。図書館の1階には40台のコンピュータが備えてあり(IBM clones and Macintosh machines)、情報技術センターOffice of Information Technologiesが管理して学生に使わせています。授業料の支払い、授業の登録、成績の連絡、図書の検索などなど、学生は自分のメールアドレスをもらって、それを使って学生生活をするようになっています。

どこの図書館でも持っている悩みの一つに、図書の破損があります。1階の入り口を入った所に展示ケースがあります。良く見ると、コーヒーカップの跡がシミになったページ、ペンで書きこみのあるページ、破れたページ、切り取られたページなどのサンプルが並んでいて、書物を愛してくださいと訴えています。これらの破損図書の補修、紛失図書の補充に、年間約100万円が使われている、と説明されていました。本は読まれなければ価値がないとはいえ、読み方にも注意して欲しいものです。

授業料の支払いなど、大学関係の会計で驚いたのは、全てクレジットカード、それもVisaカードでないとできないことでした。バスのチケットも割引価格で売ってくれますが、現金では買えません。大体、どこでもVisaかMasterで済むようです。ところが、今入っているアパートの部屋代は、小切手かmoney orderという形の商品券みたいなものでないと払えません。現金を使わない方法にも種々あって、慣れないと不便でした。まあ、アメリカの多様性の一面なのでしょう。大統領選の投票用紙がCounty(郡)毎に違っていたことを思い出すと、諦めがつくというものです。

ここの大学図書館について、いくらかお分かり頂けたでしょうか。これからも、こちらで気のついたこと、日本でも応用できそうなことがあれば、お知らせしようと思います。