日本の友人、CFRL News読者のみなさんに、9月のPortlandから、「News前書き」の特別号をお送りします。

News No.28は一月遅れで10月に発行することになりました。

820日に日本へ帰り、914日にアメリカへ戻る予定でしたが、台風11号と911日のアメリカに対する同時多発テロとのために、行き帰りとも大幅な日程変更をせざるを得なくなりました。

日本への飛行機は、1年前に購入したデルタ航空直行便の切符のために、大変不便なものになっていました。今年の3月に、デルタ航空のPortlandと日本(成田および名古屋)の間の直行便が廃止になったために、デルタ航空でPortlandから日本へ行くには、Portland-Salt Lake City-Los Angels-Nagoya2度の乗り換えをしなければなりません。

そのために、朝6時発の飛行機に乗らなければならず、820日は4時起きで空港へ向かいました。ロスアンジェルスに着いたところ、台風11号の迷走のために、名古屋行きは運行中止になってしまいました。成田行きは飛んだのですが。

それでも手続きが早かったおかげで、二日遅れの便を取ることができ、空港近くのホテルSheraton Gateway2泊し、22日の便で名古屋へ向かえることになりました。宿泊代は航空会社持ちですが、食事補助券は実費の半額程度でした。せめてもの慰めは、丸1日の休日にChina TownLittle Tokyoの散策ができたこと、空席がなかったためにビジネスクラスに席を取ってくれたこと、くらいでしょうか。ホテルからバスで40分位かけてロスのダウンタウンまで行き、そこで乗り換えて10分くらいでチャイナタウンに行けます。シニア客のバス料金は、乗り換え込みでも60セントで、安いのには驚きました。チャイナタウンの活気は驚くべきもので、中国系アメリカ人の数の多さがもたらすものなのでしょう。英語のまったく話せない商人がやっていけるのも、その結果のようです。

日本での3週間は、蒸し暑い日本の夏の残暑を満喫することが出来ました。それでも台風11号の通過後の何日かを除いては、だいぶ秋らしくなってきて、帰国の頃には曼珠沙華が土手下や林の縁に咲きそろって、初秋の風情を感じさせてくれました。

11日にニューヨークとワシントンで起きた同時多発テロのために、914日発のアメリカへの飛行機が飛ばなくなったことは、14日までハッキリしませんでした。それからが一騒動でした。できるだけ早くアメリカへ戻るにはどの航空会社の飛行機がよいかを、旅行社に調べてもらい、当初予定したアメリカン航空のSan Jose経由を、カナダ航空のVancouver経由に変更して、やっと18日出発に決まったのが15日の午後です。

予想以上に乗客の少ない飛行機でしたが、出発時刻がまず2時間遅れ、そのためにVancouverでの乗り継ぎがうまく行かず、結局6時間も余分にかかってPortlandに着きました。Vancouverからはアラスカ航空のプロペラ機でSeattleへ、そこでもう一度乗り換えてPortlandへ、それぞれ2時間以上待たされたので、へとへとになって家に着きました。空港からのタクシーの運転手の話でも、飛行機の便数減、旅行客減で、運転手の収入も大幅に減っているようでした。

帰ってきたPortlandは、木の葉が黄ばみ、送風器で落ち葉を吹き集め清掃するアルバイト学生の姿がちらつく初秋の街で、夜などはセーターが欲しい涼しさです。それにも増してひんやりとした感じを与えるのは、テロの影響が深く市民の間にわだかまっているせいでしょう。

同時多発テロの被害の映像は、日本でも11日の深夜から数日にわたって放映されていましたから、われわれもよく知っています。こちらへ来て、死者の数が6500人以上にもおよぶことがはっきりし、現実のアメリカ人の生活に触れると、この事件がアメリカの社会に与えた影響の大きさを実感します。’Pearl Harbor’との比較がよく取り沙汰されされますが、1941年の死者は2500人余で、その大半が軍人だったことを考えると、今度のテロの質の違いがはっきりします。「日本軍は日の丸をつけていただけ増しだ」と言うアメリカ人もいますが、深層心理の複雑さが思いやられます。こんどのテロの犠牲者を含め、あらゆるテロの犠牲者に哀悼の気持ちを捧げたいと思います。

最近の日本では、15年戦争を「ABCD(アメリカ、イギリス、中国、オランダ)包囲網を打開して日本の生命線を確保し、欧米帝国主義の植民地だった東南アジア諸国を開放するための止むにやまれぬ聖戦だった」と強弁するグループの主張が、一部の人達の間で人気を集めているようです。2001911日の同時多発テロも、同じような文脈でそれを正当化するグループが存在するのでしょうか。

1941年の世界の構図を後知恵で描けば、真珠湾攻撃に拍手喝さいしたのが当時の日本の民衆、馬鹿なことをしてくれたと怒ったのがナチスドイツの総統ヒットラー、これで一安心と胸を撫で下ろしたのがナチスとの孤立した戦争を強いられていたイギリスの首相チャーチル、参戦の口実を得て決意を固めたのがアメリカの大統領ルーズベルト、というところだったようです。2001年の世界の構図は、どのように描けるのでしょうか。

 

テロの起こった911日から数日間の、地方都市Portlandの表情をお伝えしたいと思います。

911[資料1]13[資料2]に、学長名のメールが大学のスタッフに宛てて送られています。

11日のメールでは、オレゴン州がテロの直接の被害を受ける心配のないことを知らせ、平静を保って被災者の救援に協力するように要請しています。

13日のメールでは、犠牲者にたいして哀悼の意を捧げると同時に、異なる価値を尊重しあうことを本質とする大学の特性に訴えて、軽挙妄動に走らないように要請しています。これは、各地で起きたアラブ系住民にたいする暴行・殺人などを意識してのものでしょう。アパートや大学のクラスから、アラブ系の人達の姿が目立って少なくなったのは事実のようです。

 

事件後1週間における地方紙The Oregonianの一面トップの表題が、ニューヨークから遠く離れた西海岸のこの地における事件の表情を表しています。同じアパートに住む友人Kさんが取っておいてくれた新聞の紙面によります。

9/11 (Extra version: Day of Terror), Horrific attacks shock America/ Hijacked jets hit, collapse N.Y. World Trade Center Towers, set Pentagon afire; Bush grounds all flights, promises to ‘Hunt down’ terrorists

9/12, Day of Terror/ In New York jets hit World Trade Center; towers collapse/ In Washington another plane clashes into the Pentagon/ President Bush offers reassurance to a shaken nation

9/13, Hunting for answers

9/14, Bush ready to strike back/ The President; Bush declares himself poised to lead, win / The Investigation: Suspects are questioned in New York

9/15, A day for reassurance/ The President: ‘USA! USA!’ resound at Trade Center Ruins/ The Investigation: U.S. Officials name 19 men as hijackers

9/16, America under siege/ How will we chose to remember the ninth month, the eleventh day, the unholy hour of 2001?

9/17, U.S. demands bin Laden

9/18, Markets down; optimism up/ Bin Laden wanted ‘dead or alive’

なお、The Oregonianは、今年のPulitzer賞を新聞部門で二つ受賞した、地方紙の中でも良質の新聞です。

 

テロから12日経った現在(923日)、事態の推移には一定の方向性が見えてきたと言えそうです。

アメリカ経済に対する影響は大きく、株価は1929年以来の最大の下げ幅で、922日のダウ平均は8235ドルにまで下落し(ナスダックは1423ドル)、円/ドル比は118円と数ヶ月ぶりの円高ドル安になっています。日本経済への影響も深刻で、5%を越した失業率とデフレと構造改革の遅延に、円高による輸出不振が追い討ちをかけるようだと、各種の矛盾が一挙に破裂しかねない様相ではないでしょうか。

アメリカ政府はテロへの報復網を着々と敷設しており、日本政府もこの機会を捉えて自衛隊の「活用」を考えようとしているようです。非人道的な同時多発無差別テロが「藪を突ついて蛇を出す」ようなことにならないとは限りません。軍産共同体への依存度が高いと言われる共和党のBush大統領の、就任以来ちらついていた軍拡路線に弾みがつきそうな情勢です。不況脱出の古典的な解決法だった戦争が、現代資本主義体制の危機の一時的救済に一役買うような不幸な事態にならないことを祈るばかりです。それは矛盾を深めこそすれ解決を先送りするだけでしょう。本当の解決は平和的に知恵をつかって行われるものだと思います。

2001年9月23日

Portland, Oregon, USAにて

小島英夫

 

[資料1] 911日の学長名のメール。

September 11, 2001

Dear Friends and Colleagues,

Today I am as shocked and stunned as you are about the tragic events occurring throughout the country.  In statements today the Governor, the Mayor and the Portland Police Chief indicated that there is no perceived threat in Portland or Oregon.  Portland State University is open. The city has requested that access to the Fourth Avenue Building be limited and only vehicles with Portland State permits will be

allowed into that building's parking lot. The University's counseling and psychological services is open and prepared to assist University students and employees. In addition, we have set up televisions on the second floor of Smith Memorial Center and deployed University counseling and safety staff to that area.

I encourage each of you to contact the local chapter of the American Red Cross and donate blood.  I am also requesting that all Portland State cell phones be shut off in compliance with the city s request. It is critical that Portland State remains a welcoming and supportive environment for all members of the community.  I hope that you will take care of one another in this difficult time. This is a tragic day; my thoughts and prayers are with you and those affected by this tragedy.

Daniel O. Bernstine

President

 

[資料2] 913日の学長他2名の名によるメール。

September 13, 2001

Dear Friends,

We are extremely saddened by Tuesday's tragic events. This is truly a time of grief for the nation and the world. We want to first extend our deepest sympathies to the victims and to their family and friends.

We must follow the leadership of the city, the state, and the nation and not rush to swift conclusions.  Instead, we must be patient and tolerant in forming judgments about these events. We urge all members of the campus fellowship to commit ourselves to the community of openness and peace that exists at Portland State and to the fundamental principles that we all hold precious in a democratic society.

Portland State University faculty, staff, and students embrace and support diversity. We represent all religions, ethnicities, backgrounds and orientations. As a University that embraces diversity we have an obligation to treat one another with respect and dignity, even during this painful time.

We encourage you to support and assist one another.  Portland State University is a community that values respect and openness.  This tradition will serve us well in the coming days as we grieve this tragic loss and move toward healing the pain we each feel.

The President has designated Friday, September 14 as a national day of prayer and reflection, asking all citizens to use their lunch hour to come together. We encourage you to participate in this time of reflection, whether on campus or at some other appropriate place. During this time of national grief, our thoughts and prayers are with you and all who are affected by this tragedy.

Daniel O. Bernstine (President)

Scott Burns (President, Faculty Senate)

Mary Cunningham (President, ASPSU)