CFRL ニュース No. 77         (2011. 12. 20)

Cold Fusion Research Laboratory (Japan) Dr. Hideo Kozima, Director

                            E-mail address; cf-lab.kozima@nifty.com 

                            Websites; http://www.geocities.jp/hjrfq930/

                                     http://web.pdx.edu/~pdx00210/

            Newsのバックナンバーその他は上記ウェブサイトでご覧になれます

 

   常温核融合現象CFP(The Cold Fusion Phenomenon) は、「開いた(外部から粒子とエネルギーを供給され、背景放射線に曝された)、非平衡状態にある、高密度の水素同位体(H and/or D)を含む固体中で起こる、核反応とそれに付随した事象」を現す言葉で、固体核物理学(Solid-State Nuclear Physics)あるいは凝集体核科学(Condensed Matter Nuclear Science)に属すると考えられています。

 

  CFRL ニュース No.77をお送りします。この号では、次の記事を掲載しました。

1. JCF12 が開催されました。

2. CFRLからの2編の論文がJCF12で発表されました。

3. 常温核融合現象に関係した特許について。

 

. JCF12が開催されました。

12月17,18日に、神戸大学においてJCF12が開催され、7編の実験と7編の理論の論文が発表されました。会議のProgramとそれらの論文のAbstractsが、下記JCFのウェブサイトに掲載されています。

http://jcfrs.org/JCF12/jcf12-program.pdf
    http://jcfrs.org/JCF12/jcf12-abstracts.pdf

2. CFRLからの2編の論文がJCF12で発表されました。

 JCF12で次の2編の論文がJCF12で発表されました。

1. JCF12-8 H. Kozima and M. Tada, “The Cold Fusion Phenomenon in Hydrogen Graphites”

2. JCF12-13 H. Kozima, “Three laws in the Cold Fusion Phenomenon and Their Physical Meaning”

 

2-1. The Cold Fusion Phenomenon in Hydrogen Graphites

この論文は、Abstractに簡単に述べたように、炭素陰極と炭素および他の金属の陽極との間で、水中でのアーク放電を起こした時にCa, Si, V, Cr, Mn, Co, Ni, CuおよびZnが生ずるという実験結果を主に考察したものです。Cross-linked Polyethylene (XLPE)での水トリー生成と核変換の発生を取り扱った論文Reports of CFRL 8-2で示したように、炭素Cと水素Hがそれぞれ格子を作り、それら2種の格子が入り組んだ構造(超格子)ができているとC-C間にHを媒介にした相互作用(super-nuclear interaction超核間相互作用)が働く可能性があります。

Graphiteの場合にも、同じような機構の相互作用が生ずるのではないかと考えて、Grapheneの中の陽子の波動関数がかなり広がっていることを示すデータを見つけました。XLPEで考えられたsuper-nuclear interactionGraphiteでも働く可能性があるというのが、結論です。この論文はProc. JCF12に投稿・掲載の予定です。

 

2-2. Three laws in the Cold Fusion Phenomenon and Their Physical Meaning

 この論文は、常温核融合現象(CFP)で見いだされた3つの経験則に基づいて、常温核融合現象が、構成粒子間に非線形相互作用のある多体系に起こる複雑性現象であることを結論しています。三つの経験則は、次のように表現できます:

1.     第1法則:安定性法則。安定な核種ほど常温核融合現象における核変換で生じる確率が高い。

 この法則は、宇宙における元素の存在比のデータ(Suess and Urey, Rev. Mod. Phys. 28, 53-74 (1956))とCFPのデータを比較することによって得られたものである。また、Hora et al. (“Nuclear Shell Magic Numbers agree with Measured Transmutation by Low-Energy Reactions,” Proc. ICCF7, pp. 147 – 151 (1998)) は、原子核が安定になる、いわゆるmagic numbersの陽子および中性子数を持つ原子核がCFPの核変換で生成されやすいことを示した。このことは、恒星で元素が生成されるときのメカニズムと同様なメカニズムがCFPにおいて働いていて、安定な核ができやすいことを示すようで、超高温ガスでの核反応が常温の固体中で起こるという不思議な現象がCFPであるのかもしれない。

2.     2法則:逆べき法則。効果の大きい事象の起こる確率は指数的に少なくなり、べき指数は – 1の程度である。効果の大きさをpとすると、その起こる確率f(p) は f(p) = C/pn で表される。Cは定数、指数n1程度の値をとる。

 この種の逆べき法則は、地震や風力分布など、非線形系で成り立つことが知られており、CFPがやはり非線形系の現象であることを端的に示すと考えられる。地震の強度とその起こる頻度にたいしては、Gutenberg-Richter law (cf. Wikipedia)が成り立つことが知られている。この法則にヒントを得て、CFPの過剰熱発生のデータを解析した結果、過剰熱の大きさとその発生頻度の間に同じような法則が成り立つことが示された。これは、地震と同じように、過剰熱の発生が複雑系の現象であることを示していると考えてよい。

3. 3法則:分岐法則。一つの事象の時間的経過は、系のあるパラメータの大きさに依存して何種類かに分類され、1周期的なもの、2倍周期、3倍周期、などから、カオス的な振る舞いをするものまである。この法則は、非線形力学の結果(J. Gleick, Chaos, Figure on Page 71. ISBN0 14 00.9250 1)とCFPの実験事実との比較から見いだされたもので、CFPが複雑性現象であることを示すと考えられる。

 これらの三法則は、CFPが複雑系の現象であることと、そこで起こる核反応が真空中での核反応とは異質のものであることを示している。その発生に関しては定量的再現性ではなく定性的再現性を考えなくてはならない*。また、核反応の性質は、これまで核物理学で取り扱ってきた真空中の核子間の反応ではなく、恒星内部で起こるのと同様な多体核反応に類するものであるように思われる。

この論文のPreliminary versionが、下記のCFRLウェブサイトにReports of CFRL 11-6として掲載されている。

http://www.geocities.jp/hjrfq930/Papers/paperr/paperr.html

本論文は、これに大幅に加筆訂正を加えて、Proc. JCF12に投稿・掲載の予定である。

*CFRL ニュース No.75, 1.   コンプレクシティ、地震、そして常温核融合現象」で言及した地震の複雑性に関して、2011年の日本地震学会総会での議論の一部が新聞報道されました。

「地震の予知・予測研究に長年批判を続けてきた東京大のロバート・ゲラー教授が特別講演で「現在の地震学の考え方である、大きな地震は周期的に繰り返し、 発生前に前兆現象があるという前提は成り立たない」と批判。「従来の地震発生の考え方はリセットするべきだ」と呼びかけた。」(2011.11.16.A紙朝刊)

 

「大会最終日の15日に委員会が主催するシンポでは、冒頭の講演にロバート・ゲラー東京大教授を招いた。政府の審議会などから距離を置き、予知を志向する地震学界やメディアへの批判を長年続ける研究者だ。ゲラー教授は「阪神大震災後も地震学を巡る環境の変化はあったが、地震学会は国の政策とのかかわりについての議論を避けてきた。今回こそは大きな意識変革が求められる」と話す。

 平原会長は「直ちに解決できる問題ではないが、大会での議論を地震学会再生の始まりとしたい」と位置付ける。」(20111116日 B紙朝刊)

3. 常温核融合現象に関係した特許について

 常温核融合現象に関しては、これまでにかなり多くの数の特許が認められたと報道された記憶がありますが、何らかの装置として公表されているものはあまり多くないのではないかと思います。私の記憶にあるものでは、Patterson Power Cellに関するものと、最近のRossiのE-Cat (Energy Catalyzer)に関するものです。Pattersonのものは少し古いのですが、次の3個が記憶にあります:

Patterson patent

United States Patent US4943355  July 24, 1990

United States Patent US5036031  July 30, 1991

United States Patent US5372688  Dec. 13, 1994

Rossiのものは、彼のLeonardo Corporationのホームページに次のような記述があります。

Rossi patent

http://www.leonardo-ecat.com/fp/index.html

Only the following patent application has been published and is available for review by the public. 

United States Patent Application US2011/0005506A1; pub. Date: Jan. 13, 2011

World Patent WO/2009/125444; pub. Date: 15.10.2009

 科学と応用については、キューリー夫人の逸話を拙著The Science of the Cold Fusion Phenomenon Topic 3. Radium and patentで記しましたが、これは古き良き時代のおとぎ話のようです。常温核融合現象については、1989年以来、あまり感心しない話題を聞かされてきたものです。これも現代の風潮なのでしょう。今後の展開があまり泥臭いものにならないことを祈るのは筆者だけではないでしょう。

 JAERIの「核データニュース」 No.61, pp. 23 – 33 1998(CFRL Website: http://www.geocities.jp/hjrfq930/Papers/paperj/paperj.html に採録)の「固体中における原子核反応(常温核融合)」に書いたように、常温核融合現象も応用が理論に先んじる例になるのかもしれません。しかし、上記JCF12での講演JCF12-13 でも話したように、核反応の生成エネルギーが格子構成粒子の束縛・運動エネルギーより桁違いに(5ケタ以上)大きいことから、反応素子をどのように維持するかは簡単な問題ではなさそうです。それらの問題が解決し、理論的にも現象が解明されて、常温核融合現象が社会的に有用性を発揮する日のくるのを待ちたいと思います。