CFRL News No. 23 (2001. 4. 10)

            常温核融合研究所      小島英夫

   CFRL News (Cold Fusion Research Laboratory News) No. 23 をお届けします。

   23 号では、

1)   Proc. ICCF8が発行されたこと,

2)   APSMarch Meetingの報告、

3)   Neutron Bands below zeroについて、

4)   付録 Comment by S. Chubb on the “APSMarch Meetingの報告

を掲載しました。

 

1)   Proc. ICCF8 Conference Proceedings Vol. 70 (Italian Physical Society, Bologna, Italy)

 200052126Lerici(La Spezia), Italyで開かれた8th International Conference on Cold FusionProceedings2月に発行され、郵送されてきました。ハードカバーの500ページの大冊で、大会実行委員長のFranco Scaramuzziの努力の成果が随所に伺われる編集です。

本文は7章に分かれています。編集方針の基本原則が伺われる表題を示すと(論文数)

1. Detection of Helium, thought as a Nuclear Ash (5)

2. Excess Heat and Calorimetry (10)

3. Transmutations (6)

4. Loading of H (D); Material Science (8)

5. Detection of Nuclear Emissions (10)

6. Experiments with Stimulation: Energetic Particles, E.M.-Radiation, Ultrasounds (10)

7. Theories (20).

掲載総論文数は、59編ということになります.(学会での発表論文数は77編でした)

 F. Scaramuzziが序文で述べているように、1989年以来の国際会議の足取りは、発表の場の限られたCF研究の歴史の見取り図と言って良いでしょう.応用に偏った研究方針が行き詰まりを見せ始めた段階でのICCF8が、イタリアの公的研究機関の主催で開かれたのも、偶然ではないでしょう。今回の国際会議の主催団体はENEA(The Italian research agency for energy and environment)で、共催団体は、CNR(National Research Agency), INFN (National Institute of Nuclear Physics), SIF (Italian Physical Society)です.

 F. Scaramuzziの見識、あるいはイタリア科学の伝統が明瞭に伺われる文章を序文から引用します。

     “I am convinced that a lot of basic research is still needed in order to better understand the science underlying CF, before practical objectives can be seriously addressed; this can be better pursued by small groups that proceed with this idea clearly in mind. And this is, in my opinion, what is happening. As an example, let me note that at this Conference there were 15 communications by Japanese scientists (more than 20% of the total), mostly from universities, in spite of the disappearance of the two big initiatives quoted above [IMRA and NHE project]. The research program at ENEA Frascati, funded by the Italian Government, is another meaningful example, which, I hope, will be followed by other initiatives of this kind.”

     “In my opinion, there is no doubt that we are facing a subject of enormous scientific interest: it can no longer denied that there are many different kinds of nuclear reactions that take place at substantially low energies, and that this implies the existence of collective and coherent interactions among the participants in the events under study.”

 Proceedingsを編集する苦労の一つが、編集方針を無視した原稿提出であることは明らかです。序文にもその苦労の一端が書かれていますが、Proceedingsを開いて驚くのは、6ページの制限にも拘わらず、最長16ページに達する違法論文が19(全体の1/)もあることです.多額の課徴金でも取ることにしないと、不公平は直らないでしょう.提出期限を守らない例も多かったのでしょう。

 個々の論文についてのコメントは、次号以下に譲るとして、会議中にも気になったことで強調しておきたいことは、過去の研究結果をキチンと踏まえた報告をしないと、CF研究の健全な進展が望めないだろうということです.

 

2) APSMarch Meeting

 直前になって、急にSeattleへ行こうということになり、12日のAmtrakの旅をしてきました。快適な急行列車で4時間(180マイル)の旅です。プログラムは前号でお知らせしましたので、印象に残った実験の論文をご紹介します。最初にその論文の記号、表題、著者名をまとめて記します。

V14.3 The Measurement of Helium Isotopes to Demonstrate Solid State Nuclear Processes, M.C.H. McKubre et al.

V14.4 Calorimetry of Pd + D Codeposition in a Fleischmann-Pons Dewar Cell, M.H. Miles et al.

V14.6 Ways to Initiate a Nuclear Reaction in Solid Environments, E.K. Storms

V14.10 Plastic Deformation in an Strained Palladium Deuteride Induced by Anomalous Neutron Capture in a Ultraweak Thermalized Neutron Field, A.G. Lipson et al.

V14.11 Anomalous Reaction Phenomena in Metals under High Proton Loading, G.H. Miley et al.

V14.12 How Metallurgical and Geometrical properties of the Samples affect the Low Energy Nuclear Reactions in Solids, P. Tripodi et al.

14.3は、SRIの従来の研究の発展で、ICCF8でも発表されたものが主です。He4が過剰熱に見合うだけ測定され、He3はトリチウムの崩壊で説明できるだろう、というのがその内容です。1個のHe4の発生に24MeVのエネルギー発生が伴うとして説明できる、という定量性には、疑問の余地があります。荒田セルでの実験は、1ランに3ヶ月以上かかったということでした。

14.4は、Milesが札幌のNHE研究所で行った実験を含むデータで、過剰熱の決め方に関して物議を醸したものです。ICCF8でも発表されましたが、彼らの方式での過剰熱決定法によると、再現性よく過剰熱が発生し、その量はセルの温度、電流密度とともに増加するようです。

この定性的な傾向は、最近のTNCFモデルの基礎付けで明らかになった吸蔵水素同位体による中性子バンド形成の機構で説明できます。

 14.6は、E.K Stormsが従来の研究成果をもとにCFの実現機構を考察したものです。”The phenomenon involves initiating nuclear reactions within special solid structures without applying high energy, ---“と書いているように、多くの実験事実を整理しているStormsならではの見識が現れています。彼の最近の実験は、Ptを陰極と陽極に使ったもので、Pdの固体試料としての頼りなさから逃げ出した形です。

 14.10は、Lipsonが札幌のNHE研究所で行った実験を含むデータです。弱い熱中性子線がPdD陰極で7.5倍も吸収されることを示しています。同時に、Pd試料が著しく塑性変形することを示しました。これは1992年のICCF3でのNTTE. Yamaguchi et al. `が示したのと同じことが起ることを示したものです。

 14.11は、Illinois大学のグループの実験です。試料はNi/Pd薄膜とPd細線で、H(D)が電解吸蔵され、0.9以上の吸蔵率のときに過剰熱と電気抵抗の振動が測定されています。

 14.12は、イタリアのグループの発表で、Cu基盤にPd薄膜をつくり、その物性的な性質とCFの関係を調べようとしたものです。

 前から過去の業績をキチンと受け継がないような傾向が気になっていたのですが(前項でも触れましたが)、今回も幾つかの発表で過去の業績に言及しないことが気になりました。 14.3He4は、過去に幾つものデータがありますが、それらをキチンと引用していません。14.10 の試料の塑性変形の発表でもYamaguchiの仕事への言及はありませんでした。もっとも、これはLipsonがロシアへ帰っていて、Mileyが代わりに発表したものでしたが。

 

3) Neutron Bands below Zero

 Proceedings of ICCF8の序文でF. Scaramuzziも述べており、私も前から主張しているように、Cold Fusion Phenomenon(常温核融合現象)は非常に複雑な現象です。現象の起こる系は、カオスで有名になった複雑系で、金属結晶の中に多量の水素や重水素が不均一に分布しており、そこに電流や粒子流が存在します.当然、原子間の相互作用があり、さらに原子核間の相互作用もあります.物理学の対象として、これ以上に複雑な系はこれまで取り上げられたことはなかったでしょう.

 現象を起こすための条件を、必要条件と十分条件に分けて考えましょう。はっきりしていることは、十分条件は未だ分からないことです。必要条件はというと、その全てが分かった訳ではないが幾つかははっきりしている、と言えるでしょう。

必要条件、1.遷移金属原子の結晶固体(原子核は格子の上に並ぶので格子核と呼ぶことにする)2.その固体中の高濃度の水素同位体、3.背景中性子の存在.

 これらの条件は、ほぼ共通認識になっていて、研究者は疑うことなくこれらの条件を満たすように実験装置をセットしています.

 問題は、なぜこれらの条件が必要なのかを多くの研究者が知らないで実験していることです.理論家の場合は、何が必要条件かの認識が最重要因子で、これを間違えるとどんなに高級な計算をしても、実験と合う結果が得られたなどと浮かれても計算間違えだったなどと後で分かるのが落です。

 私自身、これらの条件がなぜ必要なのかを知りませんでした。ですから、現象論的なモデル、TNCFモデルを考えて実験データを解析することから始めたわけです.(そこでは、格子核と水素同位体は、キチンとは取り扱いませんでした.)

TNCFモデルの利点、

 拙著「発見」で纏めたように、60種の実験データを一つの立場で解析し、統一的なイメージをCFPに与えることができた、ということは、非常にすばらしいことでした.勿論、モデルの宿命で説明できない前提が仮定されています.その最たるものが捕獲中性子です.その「密度」を任意パラメータとして、実験データを説明できるように決定する訳です。実験値が何種類かあったときに一つのパラメータを調整して全てをうまく説明できたら、そのモデルは大成功を収めたことになるでしょう.TNCFモデルは大成功を収めたのです。では、仮定された捕獲中性子とは、一体なんでしょうか.これが次の問題です。

 モデルが成功したとき、次の問題はそのモデルの内容を第一原理から説明することです。物体が原子からできているという原子モデルは、古くギリシャ時代から考えられていたことは、周知の事実です(「ルクレチウスの物の本性について」).近代原子モデル(普通原子論と言いますが、モデルと言った方が、本質がはっきりします)はドルトンやアヴォガドロの名前と結びついて知られていますが、その本質が解明されたのは、量子力学が作られた1926年以降のことです.つまり、原子モデルの場合、200年以上にわたってその基礎がはっきりしないまま、その有効性が便利に利用されてきたと言えます。

 TNCFモデルの基礎は何だろう、というのが、当然起こる疑問です。幸い、いくつかのヒントがCFPには含まれていました.一つは、背景中性子のないところでは現象が起こらないことです.(必要条件の3に入れた事実ですが、そのように認識しない研究者もいることはもう一つの事実です)。もう一つは、試料が固体結晶であることです.「固体中の中性子」がキイワードになることが、これで分かるでしょう。

 固体中の中性子については、既に多くのことが知られていました.中性子回折は、原理的には量子力学の誕生と同時に、実用的には研究用原子炉が作られた1940年代以降に、物理学者の常識になりました.同じように使われる電子、光子が固体中でエネルギーにバンド構造を持つことは、もう一つの常識でしたが、中性子バンドという考えは、誰も公表していませんでした.常温核融合現象(CFP)が知られ、固体中の中性子がキイマンだと分かると、中性子バンドの可能性に気がつくのは時間の問題です。1998年に日本物理学会のJPSJに発表した論文で、中性子回折に対応する条件での中性子バンドの可能性とそのCFPへの寄与を示しました。もう一つの発展が、最近発表した格子核の中の中性子が作るバンドです。結晶の外で静止している中性子のエネルギーをゼロにとると、中性子回折のときの中性子は正のエネルギーを持っています。格子核の中の中性子は負のエネルギーを持っていますから、そのバンドは違った性質のものになります。どのようにして、一つの格子核の中の中性子が他の格子核の中の中性子と相互作用してバンドを作るのかが、今まで誰も気のつかなかったCFPを実現する要点だった、と言えるでしょう。

 詳細は論文になってからご覧頂くことにして、上に挙げた三つの必要条件がこのバンドの形成に関わっていることだけを指摘しておきます。     (以上)

 

4) 付録 Comment on the CFRL News No.23 by S. Chubb

News No.23の発行後に届いたS. Chubbからのメールを付録として追加します。APSについての解説にもなっているので、読者の皆さんの理解に役立つと思います。

 

“Fellow CF colleagues,
   I am pleased that Hideo Kozima mentioned the March meeting CF session in his "Cold Fusion RL News No. 23 4.18.1."  I think it is appropriate to mention three additional items, concerning this session that he did not mention:

1.  Each abstract in the session is available, on-line through the WEB address,
http://www.aps.org/meet/MAR01/baps/abs/S7640.html#SV14.001
(None of these abstracts is very long.)

2.  Because the organizers of the March APS meeting have not yet accepted suggestions (which have been made each year, since 1997) that invited talks about Cold Fusion be presented at the meeting, consistent with APS rules, each talk in this session was limited to 10 minutes.  For this reason, at best, each talk could only serve as a brief introduction of the material.

3.  Because members of the APS have not been following CF work, at times, during the session, it was necessary for speakers to provide Introductory material, which though well-known to CF scientists, is not known by most physicists.  (This is one reason that much of the material may have seemed to have been repetitive.)

     Finally, there is an additional piece of news.  In order to draw attention to obvious problems that have resulted from the past history of APS involvement with Cold Fusion, a number of individuals submitted abstracts, associated with the history of Cold Fusion (as opposed to on-going research in the field), for presentation as contributed talks for sessions, organized by the APS forum on the History of Physics.

  The organizers did not allow these talks to be scheduled in any of the sessions associated with this forum.  However, consistent with the by-laws of the APS, the organizers of the meeting (the April APS meeting) where this forum scheduled its sessions were required to accept these talks for presentation.  (They scheduled these talks for a separate session, referred to as "General", that typically is sparsely attended.)

   The talks will be presented in Room 12-13, of the Renaissance Hotel, in Washington, DC, beginning at 3:30 PM, on 30 April 2001.  You may view the abstracts, directly, on-line, through the following WEB site:
http://www.aps.org/meet/APR01/baps/abs/S2380.html#SS13.006

   It is pretty obvious, I think, to anyone who has paid attention to CF history that a serious breakdown in communication about the relevant science has occurred.  How to correct this problem is an open-question.  Hopefully, by openly raising the relevant scientific and political issues in conventional scientific meetings, we will be able to help remedy the situation.

SCOTT CHUBB”