CFRL News No.18 (2000. 11. 10)

常温核融合研究所      小島英夫

   CFRL News (Cold Fusion Research Laboratory News) No.18をお届けします。

   18 号では、

1), Fusion Technologyに新しい論文を投稿したこと、

2) JCF2がひらかれたこと、

3) RCCNTCE8が開かれたことに関連した記事、

4) 沢田哲雄氏の「Cold Fusionへのメッセージ」第三部、

を掲載しました。なお、この記事の中にはMicrosoft Word用のmath type equationが使われていますので、このソフトをinstallしていないと数式が読めないかも知れません。この機会にinstallしてはいかがでしょうか。また、この「メッセージ」は著者の英訳を待ってEnglish versionに掲載の予定ですが、未だ掲載されていません。

 

1)   H. Kozima, J. Warner, G. Goddard and J. Dash, “Reality of "the Super-nuclear Interaction" in Metal Hydrides and Deuterides Verification by Numerical Calculations for PdH (D)”

News No. 17に記した前論文に続き、この論文では遷移金属水素化物における水素同位体を仲介した原子核の相互作用を、具体的に追求しようとしたものです。PdHPdDにおいて、基底状態のpdがどのような状態にあるのかは、かなり研究されていますが、波動関数に関しては特定の物質以外は良く分かっていません。ただ、常温ではおよそ調和振動子の基底状態にあると思っていいようです。

そこで、実験データを基に、高い励起準位の波動関数の広がりを推測し、隣接した格子点にあるPd原子核の間の核力相互作用(超核力相互作用)の実現可能性を実証しようとしました。400 meV程度の励起エネルギーで陽子(重陽子)は超核力相互作用を仲介する状態に励起されることになるので、CFPの実験条件に適合します。高温、高電流の方がpositive resultsを高い再現性で得られるという実験データに関連した特徴のようです。

もう一つの核の方の励起(中性子を励起状態に持ち上げる)には5 MeV程度のエネルギーが必要なので、TNCFモデルで主張してきたように、トリガー反応は核反応でなければならないでしょう。

 陽子あるいは重陽子の第3、第4励起状態以上への励起については実験データがないようですので、この論文における励起状態の取り扱いの妥当性は不確かです。高励起状態の取り扱いには、イオンバンドを考えたほうが妥当なのかも知れません。

 

2) 2回日本CF研究会(JCF2)が開かれました。

先にお知らせしたように、第2回日本CF研究会(JCF2)が札幌で開かれました。

28編の論文が発表されました。会議の概要と発表論文のAbstractsは下記のweb-pageで見られます。

http://fomcane.nucl.eng.osaka-u.ac.jp/jcf/PAPER.HTML

また、発表の際のOHP原稿が下記のweb-pageで見られます(編集は進行中のようです)。

http://fomcane.nucl.eng.osaka-u.ac.jp/jcf/DIST.HTML

この研究会には、CFRLから次の論文を提出し、阪大の太田雅之君に発表してもらいました。

JCF2-13

M. Ohta, H. Kozima, M. Fujii, K. Arai and H. Kudoh, “Possible Explanation of He-4 Production in Pd/D_{2} System by TNCF Model”

アブストラクトは上記Web-pageでご覧ください。

 

3)RCCNTCE8 (8-th Russian Conference of Cold Nuclear Transmutation of Chemical Elements) Dagomus, Sochi, October 4 - 11, 2000.

 ほぼ毎年開かれているRussian Conferenceが、今年も前年と同様に開かれました。Prof. Dashが出席し、Abstracts集を貰ってきましたので、それを基に概略を紹介します。

Abstractはほぼ1ページの長さで、英訳あるいはロシア語訳が付されています(いくつかの論文では、ロシア語のみ)。38の論文が提出されましたが、実際に発表されたものはもっと少ないようです。紙面の都合で、詳細は次号に譲ります。

Abstract集を手に入れたいときは、Yu.N. Bazhutov or I.V. Goryachevに連絡をとるとよいでしょう。代金は4.5ルーブリのようです。e-mail addressgnedenko@kiae.ruです。

 

4). Cold Fusionへのメッセージ (3) 沢田哲雄

News No. 13の「Cold Fusionへのメッセージ(2)」に続く)

5. 核融合反応の触媒としてのmagnetic monopole

  1982年前後ですが、人々は磁気単極子を捕まえようと躍起になっていました。それ以前にも、磁鉄鉱にトラップされているかもしれない磁気単極子をパルス状の磁場をかけて引っ張り出そうという試みが後藤英一さん達によってなされた事はありましたが、はっきりした結論は得られませんでした。その頃、人々は宇宙の始りの big bang で創られた筈のmonopoledetectしようと考えていました。理由は忘れましたが、光速の 1/30 というひどく遅い(素粒子屋の感覚では)ものだと思われていました。150億年も宇宙空間を漂った果てに地球にやってきたものです。私は、そのmonopoleが星間物質(主としてprotonで、少しばかり他の軽い原子核が混っている)で汚れて(contaminate)いるに違いないと思い、その様子を理解する事が detection に役立つに違いないと考えて、水素やヘリウムなどの軽い原子核とmagnetic monopoleの作るbound statesenergy levelsや波動関数を計算しました。幸いな事に、1976 T.T. Wu and C.N. Yangの論文で、荷電粒子とmagnetic monopoleが共存する系を量子論的に取り扱う方法は分かっていました。シュレ−ディンガ−の論文から50年もの間そのような系の計算が出来なかった事を不思議に思う人がいるかもしれません、そこでここでは何がネックになって計算が出来なかったのか、また波動関数の概念を少し拡張することによって、いかにしてその困難を迂回することが出来たかについてお話します。

 電磁場の影響をシュレ−ディンガ−方程式にとり入れるには、gauge置き換え

 

をする事によって達成されます。ここで  vector potentialで、

   

です。特に今の場合はがク−ロン磁場になるようなものです。そのようなvector potentialの存在に関して二つの異なる意見があります。一つはdiv rotは恒等的にzeroだから を満足するは存在しないというものです。もう一方は、具体的にとして

 又は

と取っておけば、そのrotationはク−ロン磁場になるのだから存在に問題はないというものです。これが正しい事を確かめるには公式

を思い出すだけで十分でしょう。ただし  はそれぞれ が増加する方向を向いた単位ベクトルで、地球の表面で言えばそれぞれ、天頂、真南、真東を向いた単位ベクトルと言う事になります。ここでもとにもどって、二つの意見のうちどちらが正しいかですが、実はどちらも正しいのです。というのはregularな関数でなくそれぞれの所にsingularityがあります。つまり(北)は z-軸の負の部分、 (南)は z-軸の正の部分にstring (Dirac  string)がありCoulomb磁場として等方的に出ていったmagnetic fluxstringを通じて還流して来ていたのです。このことは、stringのまわりに半径εの小さなcontourをとってStokesの定理を使うと確める事が出来ます。というわけで、は原点に湧点はありません。この事は、本物のク−ロン場との決定的な違いです。でも南極点の近所さへ除いておけばク−ロン場になっている事も確かです。

 Wu and Yangideaというのは次のようなものです。vector potentialの定義域を北半球と南半球の二つに分け、それぞれで使うポテンシャルは(北と(南であるとします。二つの定義域に少し重なりを持たせるために、北の領域を赤道を少し南に越えて広げておきましょう。南の領域についても同様です。このようにすると赤道の近所に重なり合う領域が出来て、そこでは差が定義できます、それは

ここで重要な事は、その差が何物かのgradientになっているという事です。この最後の式が正しい事をチェックするには、球座標でのgradient

を思い起こすだけで十分でしょう。rot gradが恒等的にzeroである事より、一般にvector potential  +∇Λと変換しても同じ磁場を与えます。この変換のことをゲ−ジ変換と呼びます。また磁場こそが物理的に意味があるので、結果はゲ−ジ変換で変わらないはずです。この事をゲ−ジ不変性と言います。面倒が起こるのは要するに、磁場が物理的なものであるのに対し、シュレ−ディンガ−方程式に現れるのはvector potential磁場であって磁場ではないということによります。先に述べたゲ−ジ置き換えと組み合わせると、ゲ−ジ変換は結局なる変換です。これでは基本のシュレ−ディンガ−方程式自身が変わってしまうではないかと、心配になるかも知れませんが実はこの形はが変換前の波動方程式の解とすると、変換後の解がである事が示せますので、結局違いは位相(phase)だけになり物理的内容は変更を受けません。これらの事どもは、量子力学をやった事のある人であれば誰でも知っている事ですから、これ以上述べない事にします。ただ強調しておきたい事は、Wu-Yangideaに現れた北半球用のvector potential と南半球用vector potential で特徴づけられるゲ−ジ変換で結びついているという事です。またこれに対応して、南側の波動関数は、そのoverlapping domainで北側の波動関数に位相をかけたものになります。(今まで  の単位でやってきましたが、後の便宜のため  を復活させて書いておきました。) 

 まとめますと、原点に固定したmagnetic monopoleの作るク−ロン磁場の中の荷電粒子の運動を扱うのに必要なvector potentialは、一つの関数で表わそうとするとDirac stringが出てしまってうまく記述できないけれども、全領域を二つに分割して各々の領域に別々のfunctionassignしておき、さらに境界付近のoverlapping regionではそこで定義されているfunctionsの間にお互いにゲ−ジ変換で結ばれているといったようなある種の関係があるとするとうまく行って、rotationをとると純粋のク−ロン場になります。このようなものを C.N. Yang functionと区別してsectionと名付けました。落ち着いて考えてみると、このような概念は物理屋にとっては珍しいかもしれませんが、数学者にとってはごく普通に使ってきた事です。ちょっと多様体に座標を入れる時の事を考えてみて下さい。全体を一つの座標でcover出来るなどと考える人はいないでしょう。

  ではここで具体的に、角運動量の二乗とその z-成分の固有値と固有関数を計算します。普通の中心力ポテンシャルV(r)の時それは球関数で、及びの固有値はそれぞれ  及び  である事はよく知られています。中心力の時は、変数分離  の形に書けて、Yは球関数になります。magnetic monopoleが原点にある場合もV(r)が中心力ポテンシャルの時、やはり変数分離になりますが、Y及びeigen sectionになります。Yangはこれを球関数spherical harmonicsに対してmonopole harmonics と呼んでいます。ではこのmonopole harmonics を求めましょう。このYindex  の他にextra angular momentum dependします。q=0 でもとの球関数に戻ります。角運動量ベクトルは

で右辺の第1項が軌道角運動量、第2項が今の場合特有のextra angular momentumで、両者は互いに直交している事に注意してください。 の成分の間には例の交換関係

 

が成り立っています。それを使えば、  の同時のeigen-section を出すのはそれほど難しい事ではありません。そのやり方と結果は Wu-Yang の論文 (Nucl. Phys. B107, 365, '76) を見てください。ただここで強調しておきたい事は、のとり得る範囲が 及びであるという事です。それにDiraccharge quantization conditionより、q は整数か半整数であるという事も思い出しておいて下 さい。 またこのY functionではなくsectionで、北と南の領域で別々の関数になっていて、赤道付近のつなぎの所で  位相がとんでいます。実はWu-Yangの論文で導入されているmonopole harmonics は、我々がすでによく 知っているWigner d-関数で表せます(たいていの原子核の教科書にその テ−ブルが載っています):

and

これでどんなV(r)に対してもbound stateのエネルギ−を計算したり散乱問題を解いたり出来ます。幸い変数分離をした時、角度の方はsectionになる事は上で見たとうりですが、動径のほうはfunction R(r)で、その方程式は

になります。

 

5-1 spin 0 の粒子とmonopoleの系

 上の式で特にV(r)=0とした式のの波動関数は

になります。ただし、です。q=0 では平面波の部分波射影になるので当然の事ながら球ベッセルになります。また E < 0 には意味のある解はありません。そのためpionのようなspin zeroの粒子とmagnetic monopolebound stateは存在しません。

 

5-2 spin 1/2 の粒子とmonopoleの系

protonそれにneutronのようなspin 1/2で大きなanomalous magnetic momentを持った粒子(cold fusion でのfuel particle deuteronを除いてこのcategoryに属する )がモノポ−ルと結合状態を作る事は十分予想できる事です。ただし、二つのスピン状態  のうち  の方のみが引力になりbound stateを作ります。なおnuclear magneton 単位で測った異常磁気能率でneutronだけはマイナスで です。この事を確め、energy levelを計算するには、spin 1/2の粒子に対するSchrödinger方程式を書いておけばよいわけですが、それには外場の中のDirac方程式を書いて、それの非相対論近似(Pauli 近似)を作るのがお勧めです。ただこのとき、Dirac方程式にPauli を付け加えておく事を忘れないで下さい。特に外場magnetic chargeの磁気的ク−ロン場の時はこの付加項は です。ただしこの場合は2成分spinorです。この式を使えば、エネルギ−の固有値問題、散乱問題それに吸着の問題を正確に解く事が出来ます。

 

5-3 spin 1 の粒子とmonopoleの系

 spin 1/2の粒子がDirac equationで扱えたように、spin 1point particleDuffin-Kemmerの式で扱えます。deuteron binding energyが小さく、その半径が大きいので、核内部の波動関数は変わらないものとしてdeuteronpoint particleとして扱う近似がよいかどうかは疑問が残ります。実際、deuteronは二つの核子(protonneutron) S-波状態で結合していて、その全スピンは S=1 つまりtriplet stateになっています。一方spin singletの方は、少しばかり核力ポテンシャルの引力が弱いので、bound stateを持つ事は出来なくて、virtual stateになっています。これは自由場のときそうですが、monopoleの近所では様子が違います。もともとdeuteronでは核子のスピンは同じ方向を向いていてmagnetic momentは、p で、n ではなので、これがcancelし合ってdeuteronでは0.86 程度の小さなものでmonopoleに強くboundされるという事はありません。しかし、もしneutronのスピンがflipしてお互いに逆向きになると、全magnetic moment 4.6 となって、深くモノポ−ルと結合します。このため deuteronmonopoleに近づくに従ってspin-singlet成分が混入してきて、すっかり原子核の波動関数が変わってしまいます。そのためもはやpoint particleとして扱う事は許されなくなり、deuteronを核力ポテンシャルを使って p n から組み立ててくる必要があるので、取り扱いはずっと複雑になります。そのためここではそれについて述べるだけのスペ−スがありません。

 

5-4 結晶に trap されたmagnetic monopole

 結晶に trap されたmagnetic monopolebinding energyの大体の値を知るために、次のような超簡単なモデルを考えてみましょう。間隔が1 Å の結晶格子の上に 1 Bohr magneton  magnetic momentが付着していて、その向きはrandomであるとします。それとmagnetic monopoleが入ってきて、格子上のmagnetic momentmonopoleを中心にして球対称に整列し、半径  の外ではrandomのままであるとします。ただし、半径  は温度 T の熱攪拌とそこでのmagnetic momentのエネルギ−が等しくなる所です。問題は、そのエネルギ−差 と半径を求めよ、というものです。それらは   に比例します。答えは、Dをmagnetic chargeとして、それぞれ

になります。

  

5-5 まとめ

 5-1 から 5-3 で述べた事から、magnetic monopoleには、核融合反応の触媒としての性質があることが分かります。つまり、p, n, , のようなanomalous magnetic moment を持った原子核を引きつけて半径  程度のbound stateを作りますので、fuelの密度はプラズマによる核融合のときの  にくらべて  も大きい事がわかります。そして最終的にはこれらはになって20 MeV程度の大きなエネルギ−放出しますが、spin 0 のためモノポ−ルを離れて行くので、monopoleはもとのfreshなモノポ−ルに戻ります、このようにして触媒としての役割をはたして行きます。もう一つ重要な役割は、 、更にのような2体から1体への反応は自由空間ではエネルギ−保存と運動量保存に矛盾するので起こりませんが、今の場合はモノポ−ルが運動量を吸収できるので矛盾がなくなり、これらの反応が起こります。

  以上の事は、電極を使ったcold fusionとは関係なく云える事です。実際、この計算は1983年にmagnetic monopoleを触媒とした常温で作動する核融合炉をdesignする目的のためになされたものです。最近電極を使った実験が多く現れてきましたので、それと組み合わせて考えるといろいろと面白い事が導けるのではないかと期待しています。