CFRL News No.13 (2000..6. 10)
常温核融合研究所 小島英夫
CFRL News (Cold Fusion
Research Laboratory News) No.13をお届けします。
第13 号では、
1)
ICCF8の報告(1)(概略)、
2) 沢田哲雄氏のエッセイ「Cold Fusionへのメッセージ」(2)
を掲載しました。
1) ICCF8報告(1)
第8回常温核融合国際会議(Lerici, Italy May
21 - 26, 2000)が盛会裏に終りました。従来の実験結果が高い定性的再現性で確認され、TNCFモデルを含む幾つかの理論が説明、提案されました。ページ数と編集時間の関係で、本号では会議の概略のみを、次号(7月10日を予定)から詳細を報告します。
会議では、26篇の口頭報告(35分20篇、20分6篇)と50篇のポスター報告が発表されました。私見では、多くの実験家がこれまでのデータをより高い精度で確認していた事と、理論ではTNCFモデルの口頭発表が最も科学的な内容を含んでおり、CF研究の将来にプラスになる効果を与えたものでした。他に、実験ではMiley達が、PPCではなく同じような構造の平面薄膜層を用いてPPCと同様な結果を得ていた事、McKubreがCase CellとArata Cellとで熱とHe-4を同時に測定し、それらの量に比例関係があることを示した事、MilesがNHE計画に酸化しての実験でpositiveな結果を得ていたと主張していたことが注目を引きました。Hagelsteinがd + d = He-4 +
phonon (23.8 MeV)を理論的に導き、McKubre達のデータを説明したと発表しましたが、これは彼の2度目の大ポカではないかと思います。詳細は次号以下に譲ります。会議の最終日に、地域別のまとめがなされましたが、日本からの発表は阪大の高橋亮人教授が行いました。
次回のICCF9は2年後の2002年に北京で開かれること、ICCF8のProceedingsはItalian Physical
SocietyのReports on
Physicsシリーズの一冊として2001年の1月に発行されることが決まりました。
2) 「Cold Fusionへのメッセージ」(2) 沢田哲雄(日大・理工・原子力研究所)
3. 自然界に現れる電荷は何故、とびとびなのか
[C]
物理学者の仕事ぶりを見ていると非常に異なった二つの向きがある事が分かります。
一つは学生時代から慣れ親しんだ方向で、基本法則は分かっていて系の構成要素
hyle も与えられていて、何々を計算せよ、と言うタイプのもので、これは論理のchain
を伝って結論を出す事が出来ます。試験問題の大部分はこの向きのものです。
もう一方は新しい自然法則を見出す向きです。
こでは論理の鎖を伝ってと言うわけには行きません。豊かな想像力が要求され、科学者が
artist のように見える時です。原則的には trial and
error で探す以外に方法はありません。これは科学者が行う仕事のうちもっとも素晴らしい部分です。その他にも、この向きの仕事があります、つまり想像力が要求される向きのものです。それは法則そのものを変えないでそのままにしておいて、系の素材
hyle を選択して行く場合です。この時も
trial and error で探す事が必要で、やはり imagination が要求されます。これは珍しい現象が確認されて、それらが基本法則プラス従来の
hyle の入れ方から出て来る系としてでは、うまく理解できないとき、新しい素材から出発して現れる系をいろいろと探して行く必要があります。
Cold
Fusion は今そんな場所にいるのではないかと私は思っています。基本法則が同じであるならば、いくら素材
hyle を代えてみても、似たような系が出て来るだけだと思っている人は多いと思います。前の例では、e-p
から水素原子が、n-p
から
deuteron が出てきて、energy scaleの違いを別にすればあまりかわり映えのしないものではないか、という意見があります。
しかしこの section と次の
section では、そうでない例、新しい hyle を採るによってがらりと変わった世界が出現する例をお目にかけます。
ここでの素材は、荷電を帯びた粒子と磁荷を帯びた粒子です、またこれらを扱う枠組み
forma の方は量子論であるとします。量子論に入る前に磁荷とかmagnetic
monopole について説明をしておきます。その出発点は
Maxwell の方程式が審美的に奇妙な形をしている事です。つまり真空中では
Maxwell equations は電気的なるものと磁気的なるものが対称的に現れています(
duality 対称 )。
しかしsource,
current が入るとこの対称性はなくなります。 例えば
div D=ρ に対しdiv
B = 0 となっていて電荷密度ρに対応する所に磁荷密度ρ’が入らず恒等的にゼロと置かれています。このため電場と磁場の対称性は壊されています。しかし二番目の式を
div B =ρ’ のように変えておくとその対称性は保持されます。しかも、問題を解く場合には、我々の普通の実験条件ではρ’
= 0ですから、解いた結果はどちらを使ってやっても同じです。
そのようなわけで基本法則として
{div D=ρ and div B =0}、{div
D=ρand
div B =ρ’}のどちらを採用してもよかったのです。内容は、前者が「magnetic
monopole は絶対にない」に対し、後者は「magnetic
monopole の存在を排除出来ない」と言うものです。歴史的に見てdiv
B =ρ’が出てきたのは一方の極を取り出そうとして長い磁石を切断しても、二つの短い磁石になるだけで
magnetic monopole を取り出す事はどうしても出来ないと言う経験事実から帰納したものです。
Maxwell
equation の残りの式に関しても
rot H - ∂D/∂t
= i
に duality 変換
(E →
H and H →
- E) を施して得られる式
- rot E - ∂B/∂t
= I’
は duality 対称性を持っています、ここにi’
は磁荷の流れです。
このi’
項を強制的にゼロと置いたのが
Maxwell equation での電磁誘導の式です。最後にduality symmetry を持つように修正された
Maxwell equations をまとめて書いておきます。
div D = ρ, rot H - ∂D/∂t
= i,
div B = ρ’, rot E + ∂B/∂t
= - i’.
ここから、電荷と磁荷が共存する系を量子論的に扱うわけですが、その前に重要だがあまりよく知られていない事実を確認しておきます。それは電荷Qの粒子と磁荷Q'の粒子の系は、それらが静止していても角運動量
-QQ’r0 を持っていることです。もしお互いに回転していて軌道角運動量L
がある時、時間的に保存するのは、それらの和
(r x p - QQ’ r0) です。ここでr0 は単位ベクトルで磁荷から電荷を結ぶ方向を向いています。 今、電荷を持つ粒子の質量を
m とし、他方磁荷を持つ粒子の質量を無限大にとって原点に固定しておくという、単純化した場合について証明しておきます。
やり方は、中心力のときのL
の保存と同様です。
ただ違いは、力がク−ロン磁場
のなかで荷電粒子が感じるロ−レンツ力であると言う事で、運動方程式は
m d2r/dt2 = Q v x Q’r/r3
となり、rとの外積を作ると
d/dt(r x mv) = QQ’[r x (v x r)]/r3 = QQ’d/dt(r/r)
となって(r x p - QQ’ r)が保存量である事が分かります。ここでこの量の二つの項は互いに直交している事に注目してください。
ここから量子論に移ります。
4.
自然界に現れる電荷は何故、とびとびなのか
[Q]
量子論では角運動量の、ある軸(量子化軸)に関する成分は、h/4πの整数倍しかとる事が出来ません。r方向に量子化軸をとると、-QQ’
= nh/4πが出ます、これが Dirac のcharge
quantization condition です。この式は今後よく使いますので標準形で書いておきます:
QQ’/hc/2π
= n/2 ( n = 0, ±1、±2、---)
(Dirac)
ここで c が分母に現れたのは
SI 系から
Gauss 系に移ったからです。この Diracのものに対して
Schwinger は、今の場合の対象は幾何学的なものだから角運動量はh/2πの整数倍のみをとり、半整数倍の方はとるべきではないと主張しました。Schwinger
の
charge quantization の方は:
QQ’/hc/2π
= n ( n = 0, ±1、±2、---)
(Schwinger)
です。 どちらが正しいか、まだ
settle していませんので、今後はそれぞれから出した結論を併記する予定です。我々は一番小さな電荷(電荷素量)e
を知っています。その2乗を
dimensionless にしたのが fine structure
constant でe2/hc/2π=
1/137.036です。
他方、磁荷素量 e' の方は上の式から求まります。それには
QQ' をe
e' に代えてn
= 1と置くと得られます。よく使う式なので書いておきます:
e’2/hc/2π=
(1/4)(1/(e2/hc/2π) = 137.036/4. (Dirac)
e’2/hc/2π=
(1/(e2/hc/2π) = 137.036/4. (Schwinger)
これらの数値から分かるように、磁荷素量間のク−ロン力は
super strong で電荷素量間のそれの約 5,000 倍(Dirac)
から
20,000 倍(Schwinger) の強さがあります。
考えてみるとこれは皮肉な事で、もともと我々は磁気的なものと電気的なものが形の上では対称に現れるという
duality から出発しましたが、numerical には電気と磁気は大きく非対称になっていて、ionize
する事は、電気については簡単ですが、磁気にとっては容易ではありません。また、たとえ磁荷が単離されていたとしても、逆符号のものを呼び寄せて固い結合状態を作ってしまいます。
そのため19世紀の物理学者が、磁荷密度やその
current が来るべきところを、当然の事のようにゼロと置いてしまった理由がわかるような気がします。
最後にこの section の表題「自然界にあらわれる電荷は何故、とびとびなのか」について考えます。Millikan
の
oil drop の実験以来、我々はこの世界の電荷 Q が、とびとびである事を知っています。これは素粒子の粒子性が原因と考えられて来ました、つまり1個の電子の帯びている電荷をee
とした時、電子の集団の電荷 Q は
n を整数としてneeになり、とびとびです。 同様に、陽子の集団ではQ
= n epになります、ただし1個の陽子の帯びている電荷をepとしました。このとびとびのピッチは一般には集団によって異なります。現在
atom の
neutrality の実験より
|(|ee| - |ep|)/ep|
< 10-22
が分かっています。これは変化する電場をかけて圧力の変化を
detect するマクロな実験ですから、アボガドロ数(の逆数)程度の精度で出せます。 一般に
-e とe
は何パ−セントかずれていても、別に不思議ではないのですが、こんなに高精度で一致していることから、背後に何か電荷の出方を縛っている自然法則があることを予想させます。実は上で述べた
charge quantization condition がそれです。というのは、どんな種類の粒子が混在していても、 系のとり得る荷電の量は
Dirac caseではQ = (hc/4πe’)nですから、電荷素量は一つしかない、各粒子毎にあるのではない、と言う結論が出てきます。 これは上の超精密実験の結果とよく一致します。これによりmagnetic
charge の存在する蓋然性がぐんと高くなって来ました。
そのことから私は研究テ−マを「magnetic monopole
があると、この世界の風景はどのようになるか」に絞って来ました。 今まで取り入れていた素材
hyle にmagnetic
monopole という hyle を付け加えると、自然はずっと豊かになります。
最後に、その豊かになった部分の例を三つほど挙げておきます。第一は、すぐ上で述べたように、-eeとepが21桁に渉って一致するという事実を新しい視点charge
quantization condition から理解できるようになった事です。二番目は前に言ったようにmagnetic
monopole は逆符号の monopole と結合して、磁気的に中性のbound
state を作りますが、その複合体の振舞いや性質を調べる研究がスタ−トした事です。(
dyon model of hadron )
三番目は、単離した magnetic monopole には大きな
anomalous magnetic moment を持った軽い原子核を吸着して bound states を作るという性質があり、融合反応の触媒としても働きます。更に自らは希土類原子のような
magnetic moment を持っている原子の結晶にトラップされやすいという性質をもっているということです。このように
magnetic monopole のある世界は cold fusion reaction がごく普通に起こる環境を提供しています。