CFRL News No.6 (1999..11. 10)

            常温核融合研究所      小島英夫

 

CFRL News (Cold Fusion Research Laboratory News) No.6をお届けします。

6号では、

1)     Fusion Technol. に出た論文のSummary

2Rep. Fac. Science, Shizuoka Univ. に投稿した論文の紹介、

3Il Nuovo Cimentoに出ることになった論文、

4) IJHEにでる3論文、

5)「放射線科学」No.9No.10に出た解説論文、

6)BockrisTNCFモデルの紹介(Infinite Energy)、

7)NERI計画その後、

をお知らせします。

 

(1)昨年の9月に投稿した次の論文が、投稿以来1年ぶりで漸く出ました。

H. Kozima, K. Arai, M. Fujii, H. Kudoh. K. Yoshimoto and K. Kaki, “Nuclear Reactions in Surface Layers of Deuterium-Loaded Solids” Fusion Technol. 36, 337 (1999).

Abstract. Using the concept of the neutron Bloch wave presented previously, the possibility of an effective nuclear reaction of a thermal neutron and a nucleus in a boundary region of crystals is determined. Many experimental data of nuclear transmutations in the surface layer or surface region of solid materials loaded with deuterium supposedly induced by nuclear reactions with a thermal neutron are investigated using the nature of the neutron Bloch wave in solids. The physics of the nuclear reaction phenomena is discussed in the trapped neutron catalyzed fusion model.

 

(2) 次の論文を静岡大学理学部の紀要Report of Faculty of Science, Shizuoka Univ. Vol. 45 (2000) に投稿しました。

H. Kozima and K. Kaki, “Anomalous Nuclear Reactions in Solids revealed by CF Experiments”

2000年の3月には発行される予定です。この論文では、これまでにTNCFモデルを使って説明してきたCFPCold Fusion Phenomenon)の実験データが示す固体中での核反応の様相を、自由空間での核反応と対比して特徴を明らかにしようとしました。理論の方がまだ現象論的であるために、目的を十分に達したとは言えない内容ですが、これから完成する筈の固体中での核反応の理論への一里塚となることは確実であると自負しています。この雑誌にはこれまでにもHow the Cold Fusion occurs (1994), How the Cold Fusion occurs (2) (1998) など何編かの論文を寄稿し、TNCFモデルの完成の諸段階を発表してきました。雑誌の性格として、後に大成する研究の初期段階を育むことを使命とするのは、一つの見識ではないでしょうか。

 

(3)3年ぐらい前にIl Nuovo Cimentoに投稿した論文

H. Kozima, M. Ohta, M. Fujii, K. Arai, H. Kudoh and K. Kaki, “Analysis of Energy Spectrum of Neutrons in Cold Fusion Experiments on the TNCF Model”

が、ようやく受理されました。

この論文はBressani達の19911992年の中性子スペクトルの実験データを解析して、投稿したものです。音沙汰無しだったので諦めていたところ、同じグループが出した新しいデータがIl Nuovo Cimento Vol.112A, p.607 (1999)に掲載されており、このデータを含めて書き直して再提出しました。この新しい実験では、中性子のエネルギースペクトルを8MeVまで広げて測定しています。6 runs2 runsで中性子が検出され、その一つでは0.4から7.6MeVまでの領域に広がったスペクトルが見られます。

これで2.45MeVの中性子に拘ることの誤りがさらに明瞭になりました。他の事象を含めたCF現象の統一的かつ自己完結した説明を目指すTNCFモデルの有効性が漸く理解され始めた証がこの論文の受理に現れているのでしょう。

常温核融合現象を統一的に捉えることが大切な事が実証されつつあるような気がします。

 

(4) Int. J. Hydrogen Energyに投稿した論文のうち最初の3編の校正を3週間位の間に連続して行い、返送しました。

この雑誌はUniv. of FloridaInternational Association for Hydrogen EnergyDr. T.N. Veziroglueditorをしていて、イギリスのElsevier Scienceが発行しているかなりcirculationの良い雑誌のようです。ヤマハ発動機(株)の山本寛さんも購読しておられるということです。

 

(5) 前号で予告した「放射線科学」のNo.10, p.310(1999)No.11, p.351(1999) に小生の解説記事「常温核融合研究の現状」(上)(下)がでました。チョットした手違いで、誤植が多い欠点がありますが、理解不能ではありませんので、お読みになって感想を聞かせていただけると有り難いと思います。

 

(6) J.O’M. Bockris and E.F. Mallove, “Is the Occurrence of Cold Nuclear Reactions Widespread Throughout Nature?” Infinite Energy 27, 29 (1999)

ヤマハ発動機(株)東京事務所の山本寛氏のご好意で、この論文のコピーを読むことができました。拙著「道」をお読み頂いている方々には自明の事ですが、軽水系と重水系における常温核融合現象から生物核変換まで、同じ考え方で統一的に説明しようというのがTNCFモデルの立場ですから、その点はこの論文の立場と共通です。Bockrisとはメールの交換で、TNCFモデルをかなり理解してもらえたと思っていますので、以下に引用する、彼が書いたと思われる部分はそれなりに正確です。

しかし、全般的には、拙著を引用していながら、正確な評価をしていないようで、Pd-D系の説明しかないような記述もあります。また、モデル理論の性格が十分に理解されていないという、既成概念に囚われた傾向もみられます。モデルは作業仮説ですから、実験事実の統一的な、自己完結した説明ができればモデルとしては合格するので、モデルの基礎が第一原理から説明されているかどうかは副次的なことです。これは多くの研究者が誤解していることで、副次的な要素をもって、モデル本来の機能を無視したり、低く評価しようとする論者が跡を断たないのが現状です。

とりあえず、表記論文からTNCFモデルに関連した部分を引用します。

“The material on D-Pd is summarized in the book by Kozima^5 (Reference 5. Kozima, H. “Discovery of the Cold Fusion Phenomenon” Ohtake Shuppan Inc. Tokyo, Japan.) “Biotransmutations are well discussed --- and by Kozima.^5 -------Kozima^5 has made a detailed case in which neutrons in the ambient enter all substances and are trapped there. These entities then undergo various reactions with Li, H, D, T, etc., and produce the observed effects. Although Kozima’s model serves to explain the widespread nature of the effects (he sees neutrons as being “in” everything), his numerical analyses show the required neutron concentration to vary from 10^4 to 10^13 cc^-1 in D-Pd to achieve consistence, with results and this seems too large a range for consistency. Stress is put in Kozima’s model on reaction with Li^6 but it was shown in 1990 by Appleby and Srinivasan^29 at Texas A&M that there was no difference in the heat evolved in Pd-LiOD in systems containing only Li^6 and those containing natural Li.” (p. 32)

^{6}Liの効果についての実験結果は数も少なく、TNCFモデルと他の非常に多くの結果との整合性を考えると、当面はAppleby達の結果をモデルの基礎を疑わせるものと考える必要はないでしょう。今後、この点は注意深く見守って行きたいと思います。また、TNCFモデルで解析した軽水系の実験データには、「道」初版の段階ではBockris達の重要な実験データが落ちていたため、彼には不十分と思われたのか敢えて否定的な記述になっているようです。この点はNews No.2の(1)で述べた、彼らのデータを解析した3論文がIntern. J. Hydrogen Energyに受理され、「道」の第2版(2000年夏発刊予定)ではその結果を書きこんでいますから、Bockrisにも満足してもらえるでしょう。

 

(7) NERI計画にMileyの研究が採用されたという情報を前号でお知らせしましたが、その決定にクレームがついたようです。

これも上記Infinite Energy No.27Science Vol.285, p.505の記事によると、アメリカ物理学会(R.L. Parkの名前が挙げられていますが)の頑迷派の物理学者の圧力を受けたDOEが、審査を通って一度決定した計画を再検討するために匿名の3名からなる委員会を作り、Mileyの計画を検討させている、とのことです。したがって、Mileyだけは未だ予算を受け取っていないそうです。

尤も、ScienceD. Malakoff署名の記事では、”The project’s apparent similarity to controversial cold fusion experiments---which have unsuccessfully sought to use electrochemical reactions to spark energy-producing nuclear fusion at room temperature---raised eyebrows both within and outside DOE.” となっていて、常温核融合関連ということが、それだけで不信の基となることを明言しています。

このような経緯を聞かされると、科学が政治になり、科学者が政治家になる宿命を現代社会が抱えているのだと宣告されているような気になるのは、私だけでしょうか。物理学者の中で科学的精神が衰退するはずです。アメリカの上院議員Bob Smith氏がDOEに送った要望書の次の一節は、一部の政治家に却ってまともな科学的精神が生きていることを伺わせるものです。

“I would encourage DOE to reconsider its placing of additional impediments in the way of this research project. Miley’s research might be of great benefit to the problem of nuclear waste disposal, or it might prove that results seen in similar experiments were merely from accidental contamination. Either way, the research he proposes could be valuable. This grant represents an opportunity for DOE to show it is not closed to new ideas and approaches.”

これは本来、科学者が持つべき態度である筈です。ところが、既成の枠(「重箱」)が余りにも堅固に出来ていると(一部の物理学者に)考えられるようになったために、「重箱」の外の事象を科学的に取り扱う事が異端と考えられる風潮を助長し、気象や地震など複雑なことが自明な事象以外は、敢えて目をつぶってしまう傾向を研究者、特に数理物理学者の間に生んだようです。逆説的ですが、地震現象などが予測できるような幻想を社会に振り撒くことさえ出来るようになってしまった、と言う事もできるでしょう。

象徴的な事件が1999930日に起こった、JOC(株)の東海村での臨界事故です。この場合は、技術や科学が100%確実に予測可能であるかのような風潮が全くの誤りである事を示した典型的な事象と捉えることができるでしょう。

科学も人間の行う活動の一種であることから、研究には科学者の直感や予測が大きな役割を果たすことが、特に発明発見に絡んで認識されています。いくら高価な実験装置を使っても人間がいなければ良いデータは得られず、幾ら良いデータが蓄積されても人間がいなければ新しい科学は構築されません。

ところが一つの分野が成熟期に達し、そこでの科学者が既成の「重箱」の中だけで動き回っているとそのことが忘れられ勝になります。そして「重箱」の外の事象を意図的に抹殺しようとさえするようになるようです。

技術も同じで、人間から独立に技術が存在するかのような幻想が広がると、人間が機械の奴隷になりかねない状況が生まれるのでしょう。「モダンタイムス」でチャップリンが描いた世界を絵空事と笑ってばかりはいられない世界に成りつつあるのかも知れません。

農業を単に農産物生産の為の営みとだけ捉えるのではなく、その土地の人間と環境の調和した活動と捉える視点が、WTOの会議でEUや日本からアメリカやカナダに向かって主張されているようですが、工業における人間の問題も忘れてはならないと思います。