ポートランドだより (18                             2007. 5. 15

 「たより」(16)で、道路工事が盛んに行われていて、バス路線が大幅に変更になっていることを書きました。インフラ整備だろうと推測していたのですが、真相がはっきりしました。

 工事が進んで、路面部分の様子がわかってきたことから、これがMAXの新線<グリーンライン>の建設工事で、2009年の開通を予定しているものです。この線は、州立ポートランド大学(PSU)とUnion Station(北方に3kmほど離れた位置にあるAmtrakアムトラック(全国鉄道旅客公社)の鉄道の駅、近くにはGreyhound Busのターミナルもある)を結ぶ鉄道敷設工事だということがはっきりしました。線路の地下になる部分のインフラ施設を全部掘り出して、一区画離れた隣の道路に移設していたもののようです。今まで場末的な雰囲気だったUnion Station周辺と繁華街と大学を結ぶ多面的な開発計画には驚かされます。

 高層ビルがニョキニョキ建って、風景が一変した印象を先に書きましたが、大学でもDepartment of Computer Engineering and Engineering (CEE) の新しいモダーンな大きなビルが建ち、発展ぶりがわかります。Johnによれば、Intelが工場を建ててから、景気がいいという話で、上のCEEなどはその典型なのでしょう。企業からの資金もかなり入っているようです。

 この系統のもう一つの現象は、丘の上の大学OHSUOregon Health and Science University)へWillamette河畔からロープウェイが架かったことです。川岸の空き地に16階建てのCenter for Health and HealingCHH)ができ、ほかの診療研究施設も建てて市民サービスを充実させるとともに、手狭になった丘の上の大学本部と結ぶという、なんとも壮大な計画です。OHSUは新薬研究などで有名な大学だとか、連邦政府の資金も注がれているようです。

 OHSUCHHPSUから少し南に位置していますから、上記MAXのグリーンラインは、Union StationOHSUとを鉄道で結ぶことにもなります。(PSUCHHは、すでにStreetcarで結ばれていることを付言しなくてはいけませんね)

丘の上の大学には前からバスが連絡していて、目に痛みを感じて眼科の診察に行ったことがあります。卵を暖めて目に当てれば直ると言われて、100ドル払ったのですが、診察代の高いのと、旅行保険がすぐに支払われたのとが印象に残っています。

 

ポートランドの芸術文化生活

 4年前には、音楽でも絵画でも、30年前に暮らしたアイオワ市(Iowa City, Iowa)と比較して、みすぼらしいと感じたものでした。当時のアイオワでさえ、冬のシーズンには定期演奏会が開かれ、Joan Sutherland (当時50歳)の独唱会で美しく巧みな歌声に魅了されたものでしたが、4年前のポートランド市では、まともな音楽会が皆無でした。唯一の音楽らしい音楽は、PSUの音楽学部の卒業演奏会として4月に開かれるオペラとシンフォニーだけだったことは、当時の「たより」をご覧になるとわかります。また、市の美術館の収蔵絵画は、アイオワ大学美術館のものに比べても格段に見劣りがして、驚いたものでした。

 ところが、今年驚いたことの一つは、オペラの定期演奏会が始まっていたことです。4年前からだそうで、僕が去るのを待っていたように始めてくれたのは皮肉です。

年に、4、5回の演奏会があり、今年のシーズンは5月にMozartの「魔笛」で幕を閉じます。先日は、Wagnerの「さまよえるオランダ人」を観ることができ、「魔笛」も切符を買ったので、ポートランドの文化的レベルは僕の頭の中で大幅に上昇しました。

 面白いのは、席による入場料の違い方です。普通は、舞台に近いところは高いものですが、ここでは、近いところはかえって安いのです。先日の「さまよえるオランダ人」でその理由が分かりました。英語の字幕Captionが舞台の上方に出るのですね。すると、舞台に近い席では、字幕が見えないか、見るのに苦労するかです。したがって、最上席は最前列から10列目より後ろの舞台正面付近ということです。

 「魔笛」など、よく知っているオペラでは、最上席が安く買えるのですから、ニンマリせざるをえません。PSUの卒業公演のオペラは、今年はMozartCosi fan tutte(「女はみんなこうしたもの」)でした。入場料が均一25ドルなのは、4年前に比べてずいぶん高くなった(15ドルだった)ような感じですが、席は上席が選べて得をした気分でした。(このオペラは、「男はみんなこうしたもの」としても通用するようですが)

 映画「アマデウス」のお蔭で、モーツァルトのオペラの観どころ、聴きどころが分かってきたのですが、PSUCosiでは2重唱、3重唱、4重唱、6重唱の素晴しさを堪能しました。(演奏会のパンフの表紙をウェブサイトに載せました)

http://web.pdx.edu/~pdx00210/Miscllnsj/plddayori/plddayori.html 

 

 本を買うとき、最近はAmazon.comを良く使うのですが、アクセスしたときにBorders Books という本屋の名前を見ることがあります。全国チェーンの本屋のようですが、その店がPortlandにもあり、ときどきセールをやります。本といえば目がないほうなので、先日寄ったところ、面白い本をみつけました。

 Charles Osborne, The Complete Operas of Mozart – A Critical Guide, Indigo ISBN 0-575-401192

です。1978年にイギリスで最初に発売され、USAでは1997年に出たようです。なにしろ生涯に20編以上のオペラを作ったモーツァルトですから、全曲の解説をされてもあまり意味がないのですが、知っているオペラのうちでも最もよく聴いた「フィガロの結婚」の部分をパラパラとめくって、買うことにしました。ダポンテの回想録からの引用や、1786年の初演のときにBasilioを歌った23歳のアイルランドの歌手Michael Kellyの回想録などからの引用を読んだら、買わざるをえないことはご了解いただけるでしょう。よく聴くオペラの奥行きが広がるのは楽しみです。

 

ポートランドの気候

ポートランドの気候については、これまでも断片的にいろいろ書いてきましたが、新聞の気候欄をご覧に入れましょう(上記ウェブサイトの添付図)。0755日のものですが、そっくり一面が気候関係の記事で埋まっています。下の右から3番目のグラフは花粉(Pollen)の飛散状況(前日)で、右からGrass, Trees, Weeds, Moldsに別れています。日本のようにスギやヒノキだけが問題でないことがわかりますが、grass weedsとの違いは何なのか迷います。とにかく、5月になっても花粉症の症状が収まらないのは、こんなに花粉が飛散しているからなので、これにはガックリしています。

バスで通っていて、10分から20分もバス停で道路脇に立っているのがいけないようです。交通量が多いので、日本ほど排気ガス臭は気にならないのですが、微粒子を吸い込んで、花粉による症状の発現を促していることが考えられます。

アメリカ人にも花粉症で悩んでいる人が結構いますから、世界中(工業国?)どこでも同じような状況のようです。

 

オレゴン気質

 オレゴン州がこの国の西部開拓の最終段階に登場したことは、いろいろな点でこの州の雰囲気を特徴付けています。かなり強い反連邦意識があるようで、安楽死法案などは、全州に先駆けて成立させ、連邦政府(ブッシュ政権)の圧力を跳ね返して維持していますし、先日はGay Right Lawが議会を通過し、知事も承認する意向と伝えられています。420日のThe Oregonianから、関連記事を引用しましょう;

Decades in making, gay-rights law passes

Discrimination - Gov. Ted Kulongoski is expected to sign the bill, offering protection to Oregonians in housing and work

SALEM -- Gay and lesbian Oregonians won a victoryy 34 years in the making Thursday when the Legislature passed a law protecting them from discrimination in housing, work and public places. The Oregonian, April 20, 2007)(Salem市は州議会の所在地、Kulongoskiは州知事

これは他にも実施している州があるようですが、連邦政府の嫌がることでも(嫌がることだから、ではないでしょうが)自らの判断で実施しようという独立心には大いに同感します。もっとも、記事にあるように34年間かかっているということは、キリスト教のモラルにとって、同性愛が非常に複雑な問題であることを示していることではありますね。

 

常温核融合現象の研究

 英語世界に浸って有益なことの一つに、英語の得意でないものにも英語が強制されるので、その気にさせられるということがあります。その結果、日本に居たのでは読めない本が、何とか読み通せることにもなります。

 非常に面白いと思った本を一冊挙げます:

I. Prigogine, The End of Certainty, The Free Press, New York, 1996. ISBN 0-684-83705-6

この本は、少し大げさに言えば、20世紀の最大の書物で、GalileiNewtonEinsteinの本や論文に匹敵するものです。この本に引用されている論文に当たっているうちにFeigenbaumの論文を読むことが必要になりました。次の論文を手始めに、この分野(Nonlinear Dynamics)を勉強する必要が出てきたので、少々困ったことになっているわけです。

M.J. Feigenbaum, Quantitative Universality for a Class of Nonlinear Transforms, J. Statistical Physics Vol. 19, No. 1, pp. 25 – 52 (1978).

なにしろ統計物理というのが苦手で、最近の手法から逃げていたものですが、必要に迫られれば、何とかなるのかもしれません。常温核融合現象と複雑系がこんな具合に結びついてくるとは。幸い、友人に非線形力学の専門家もいるので、必要になれば手助けをお願いして、コツコツ取り組んでいこうと思っています。

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