ポートランドだより (10                             2003. 3. 10

早いもので、もう3月の初旬になりました。

2月の初めからいろんな花が咲き始め、2月中旬から天気の良いときにはハウスフィンチが綺麗な声で囀り始め、3月に入ってやってきたらしいロビンもキョロン・キョロンと鳴いています。

花では、いくつか珍しいのに出会いました。一つはHelleboruslantern rose, Christmas rose)と呼ばれるもので、公園の一角にある原生植物庭園に2月始めから咲き始めたものです。葉の形はシャクヤクに似ていて、花は薄緑色(葉と似ている)でかなり大きく、良く見ると美しいのですが、色があまり冴えません。もう一つは、秋に緑から黄色に変色する様子が目を引いた小潅木ライビーズribesで、房状の白い花をつけました(添付資料)。日本でおなじみのマンサク、ジンチョウゲ、馬酔木も2月から咲いています。ジンチョウゲの芳香は日本の春を思い出させます。ヒガンザクラかと思った薄紅色の花があちこちに咲き始めました。ところがこれがセイヨウスモモplumのようで、サクラにはまだ少し早いようです。白花もあり、これはアンズかもしれません。

生物学科のおばさんに幾つかの花の名前を教えてもらって、もう少し詳しく知りたいとEncyclopedia Britannicaを引いたところ、いろいろ勉強になりました。マンサクwitch hazelは東アジアと北米東部に自生しているようで、必ずしも日本人園芸家が植えたものではないようです。ジンチョウゲdaphneは、いろんな種類がありますが、日本でよくみるものはdaphne japonicaで園芸種とされています(with white or pinkish-purple flowers, are also grown as greenhouse evergreens.)。アセビpierisも東アジアと北米東部の原産とありますが、ニホンアセビPieris japonicaは園芸種として人気があるようで、花の形から「木スズラン」(the lily-of-the-valley bush)とか「ニホンアンドロメダ」(Japanese andromeda)と呼ばれているようです。このニホンジンチョウゲとマンサクとアセビが一緒に植えられていることから、マンサクやアセビも日本産と考えてよさそうです。ツツジやツバキの多いことから、単純に日本人園芸家の活躍を想像していましたが、あまり的外れではなかったようです。

1月の末に、3月の始めを締め切りとして、常温核融合の総合報告を50ページほどに纏めないか、という申し入れを受けました。ニューヨークにある中堅出版社から出すProgress in Quantum Physics Researchという本の中の一章に入れたいということです。喜んで引き受けることにし、Cold Fusion Phenomenonという題で書き始めましましたが、英語でこれだけの長さの総合報告を書くのは、内容の問題も含めて、かなりシンドイ仕事でした。幸い、前著を1998年に出してからの5年間に、理論的にもかなりの進展をしており、実験結果も前著で主に使った1993年から19997年までのものにそれ以前と以後のデータを加えることができました。ようやく大枠を書き上げて一息つきました。常温核融合現象を物理的に取り扱う基礎を据えることができたと自負しています。後は、8月の出版予定があまり延びないことを祈るばかりです。

.11の時に、真珠湾とも関連して、その影響がどうなるか、心配したことを思い出します。先日の日本の週刊誌に「もはや公平な米国なんて大ウソで、何かあれば宗教的な言説でウヤムヤにしてしまう。ブッシュみたいなバカが出てくるのは、それなりに理由があるわけです。」(「週刊金曜日」2.28号)という文章が出ていました。内政・外交の両面で、いろんな問題が出てきています。それとも関連して、アメリカの公共放送についてご紹介したいと思います。

OPB(オレゴン公共放送)で、先日市民権擁護委員会(Bill of Rights Defense CommitteeBRDC)の紹介をしていました。テロとの関連で、市民権が侵害されようとしていることに危機感を感じるアメリカ人は多いようで、この組織は、本部が東部にありますが、全国的な(national)運動をしています(ウェブサイト www.bordc.org

OPB(Oregon Public Broadcasting)PBS(Public Broadcasting Systems)の地方組織で、広告なしの放送をしています。日本でもなじみの深いセサミストリートやジムレーラーニュースJim Lehrer Newsなどの他、自然、歴史、芸術、などの特集を放映してくれます。NHKの教育番組的な面が強いと考えてよいでしょう。しかし、上に紹介したBRDCの活動などは、なかなか取り上げるのが難しいでしょう。それができるのは、この放送が広告収入に頼らず、視聴者からの献金と財団からの寄付、公的基金で運営されているからです。

そこで、ときどき日本では見かけない光景が画面に現れます。今がちょうどその時期で、放送の途中でOPBの宣伝(維持会員募集)が入るのです。長いときは15分くらい、その放送の内容を含むビデオやCD付きで年間会費150ドルとか、250ドルの会員になってください、と宣伝するわけです。基礎会費は35ドル(シニア25ドル)ですが、自分の好きな番組のビデオやCD付きだと、100ドル以上払っても会員になる人が多いようです。その宣伝時間に電話での受付をしていて、その光景が映し出されます。最近の番組では、Lawrence Welk: God Bless Americaの宣伝時間に映った映像で、30台くらいの電話が15分間全部お話中でした。なぜ、この番組がそんなに人気があったのか、の答は、この番組の解説を読むと分かるでしょう(http://www.opb.org)

 “This program is one of the most dramatic patriotic music specials ever produced for public television. This special marks the 100th birthday of Lawrence Welk, who died in May, 1992.” Lawrence Welkが1903年に生まれた音楽家であることが分かります。

それにしても、維持会員の会費を主財源にして、この大きな組織が運営されていることは、驚くべきことではないでしょうか。そして、われわれが注目しなければならないのは、このような社会的行動形式が、かなりひろく行き渡っていることです。

学校運営でもそうで、ブッシュ政権の減税政策で州の財源が乏しくなれば、教育予算を減らさざるをえなくなり、小規模校の閉校、授業時間減、教員給与カットなどが提案され、それに対して教員の逆提案、ストライキが日程に上ります。幸い、ストには至らずに妥協案が成立したようです。

オレゴン州がかなり独特な気風を持つ州であることは、前に紹介した安楽死を州法で認めている唯一の州であることからも分かりますが、最近のコンピュータソフトをめぐる議論もその一つでしょう。「USフロントライン」という日本語新聞(2003.3.10)が次のように報じています(http://www.usfl.com/).

「オレゴン州、オープンソースの利用を推進法案審議へ

 オレゴン州は、専売ソフトウェアの代わりにオープンソース・ソフトの利用を検討するよう州政府機関に義務づける法案を審議中だ。可決されれば、オープンソース・ソフトの利用推進を法制化する全米初の州となる。

ウィンドウズを専売するマイクロソフトは、2002年の夏以来、ライセンス管理戦略を強化。オレゴン州では、公立学校に対しても数万ドルもの費用がかかるライセンス所有の確認作業を行うよう求めた。これに対し、州議会議員など多くの人々から怒りの声が上がった。その背景には、同州が大幅な予算不足に悩まされているという事情がある。」

カルフォルニアでも「オープンソース・ソフトの利用をより強力に推進する法案「デジタル・ソフトウェア・セキュリティ」の審議が進行中だ。」とのこです。