ポートランドだより (7                             2002. 11. 20

11月も中旬になって、ポートランドはすっかり冬の姿になりました。

この「たより」(5)で書いたように、日本から帰ったときに少し長引いた雨の周期に出会いましたが、その後、今月初めまでは晴天が続きました。お陰で3年間では最も綺麗な黄・紅葉を堪能しました。それも今月初旬で終り、10日頃からは連日の雨天です。どうやら今年も昨年に続き雨の多い冬になるようです。

黄葉が美しかったので、黄・紅葉の移り変わりをじっくりと観察できました。背の高いエルムの天辺から始まった黄葉が10日前後で最盛期を過ぎると、それまで緑だったポプラとカエデの黄葉が始まりました。特にカエデは数が多いので、樹木の多い町じゅうが真黄色になるくらいです。落ち葉が始まると、芝や路面が見えないくらいに積もって、送風機で落ち葉を掻き寄せる作業員の楽しそうな仕事振りが目立った時期が12週間も続きました。高木が落葉すると、10メートルくらいの低木が黄葉して、陽射しの届くようになった林の中を明るく彩っているのは、一種の住み分けのようです。こうして、一月以上にわたった黄・紅葉の季節は終わりました。

カエデは殆どが黄葉し、町の色合いは黄色が圧倒的に多かったのですが、紅葉する樹種もあり、まとめて植えられていて、秋の配色に気を配っていることが分かります。カナダの国旗のカエデが紅いところを見ると、カナダでは紅葉する種類が多いのでしょうか。他に紅葉するのは、サクラがあり、カシワの中にも一種あるようです。

中部日本でカシの実と言えば、常緑の樫の木の実が普通でした。葉を柏餅に使うカシワの木は落葉しますが、僕の記憶では茶色に変色した大きな葉がいつまでも枝先に残っている、見栄えのしない木でした。群馬県東部では、柏の木は屋敷内に植えるものでないと言われていて、畑の端などに立っているのを見かけることが多かったと思います。ところが、ここポートランドでは、樫の実のようなドングリが落ちているのに気が付いて見上げても、常緑の樫の木はなく、カシワの木が立っています。さらに驚いたのは、紅葉する大木がドングリを付けていたことでした。

最近になって、落ち葉をスキャンすればお目にかけられることに気が付きました。受信側のコンピュータのメモリー容量の問題もあるので、ウェブサイトに .jpgファイルとして掲示します。別に説明のファイルも .docでつけましたので、絵を見て種類を考え、説明で確かめてください。ただし、説明は素人の判断でつけたので、間違っている可能性もあります。何か気の付いた方はお知らせいただけると幸いです。

滞米も3年目になり、そろそろ研究の方も結果をはっきりさせたい所ですが、常温核融合現象(CFP)という難問を完全に解決して、世界の物理学者を納得させるにはもう少し時間がかかりそうです。シャーロック・ホームズでいえば、銀行の地下金庫室に待機して、地下道から侵入する盗賊を待ち受けている状態でしょうか。(「赤毛同盟」”The Red-headed League”)地下道が掘られているのは確かなのですが、果たして盗賊が現れるかどうか。

僕の力不足は確かですが、なかなか手強いこともご理解いただきたいと思います。殆ど世界中の物理学者がソッポを向いていることからも、その困難さはご理解いただけるでしょう。それでも探求は着々と進展していることは確かで、それはCFRLニュースをご覧頂けば分かっていただけるはずです。

来年はCFPに関連した三つの国際会議が予定されており、それぞれに論文発表の予定です。

1. TopFuel 2003 (March 16 – 19, 2003, Wuerzburg, Germany) Session 4. Advanced Methods and Codes

2. ANS Annual Meeting (June 1 – 5, 2003, San Diego, California, USA) Session 8c. Low Energy Nuclear Physics

3. ICCF10 (August 24 – 29, 2003, Cambridge, Massachusetts, USA)

ANS(American Nuclear Society)の年会には、招待されて論文を発表します(参加費を免除されます)。

僕の理論的作業も詰めの段階を迎えて、ますますやり甲斐のある仕事を恵まれた幸せを味わっている、と言うべきなのでしょうね。こんなことでは、当分日本へ帰れないかもしれません。早くケリをつけてのんびり日本で余生を送りたいとも思うのですが、なかなか思い通りには行かないものです。

オレゴン州の今年の夏は、異常乾燥に見舞われて、記録的な山火事のために静岡県位の面積が消失したことは前にお知らせしました。最近の新聞によると、消火活動にも欠陥があったことが報じられています。その記事で分かったことですが、州の防火体制は、州直属の消防隊と委託消防会社(200社以上)の2本建てになっています。広い範囲を管理するには、その方が効率的なのでしょう。問題は、後者の体制にあります。火事があれば仕事が増えて収入も割増しされるようですから、いわゆるマッチ・ポンプになる可能性も否定できないわけです。さらに、大火事になった一つの山火事の場合には、初期消火の際に、委託消防会社の職員がスペイン語しか理解できず、英語しか話せない消防隊の隊員の指示を理解できなかったとか。初期消火に失敗して火事を燃え広がらせてしまった、と報じられています。

銀行の現金支払機の説明に英語とスペイン語の選択肢があり、市内電車のアナウンスも英語に続いてスペイン語がでてくる位にスペイン語使用人口が多いこの地方の一面です。そう言えば、テキサスの片田舎では、小さな町の公用語がスペイン語になったと新聞が報じていました。

聖書の「バベルの塔」の話は有名で、絵画のテーマにも取り上げられていますが、よくわからなかった話の意味がようやくはっきりしました。ローマ帝国がどのように滅亡したか、というのは有名な歴史のテーマの一つですが、繁栄した地域には周りから人間が集まってきてバベル状況を作り出す必然性があるようです。念のために、聖書の該当部分を引用しておきます*)

これを読むと、神様も相当ないたずら者なのではないでしょうか。ソルべー会議のときに、アインシュタインが「ボーアさん、神様はサイコロ遊びをしませんよ」と言って量子力学の確率解釈に反対したのに対して、N.ボーアが「アインシュタインさん、神様のすることに口出しをすべきではありませんよ」とたしなめたとか(R.ローズ、「原子爆弾の開発」)。科学が人間の知恵の一部であった時代の一エピソードですね。神様も結構トランプやサイコロ遊びをしているのかもしれません。

*)新しい翻訳の英語(バークレー版1959年)

11 It came about when the whole earth used one language and the same words 2that in moving in the East they came upon a plain in the Shinar territory and there they settled. 3They said to one another, "Come on! Let us mold bricks and thoroughly bake them"; so they had brick for stone and asphalt for mortar. 4Then they said, “Come on! Let us build a city for ourselves with a tower whose top reaches into the heavens. Let us make ourselves famous; else we shall he scattered all over the earth.”

5Then the Lord came down to take a look at the city and the tower which the sons of men were building. 6The Lord said: Look! One people and all with one language! The way they are starting to behave; nothing they plan to do will be impossible for them. 7Come, let us go down and so confuse their speech that they cannot make out each other's words. 8Thus the Lord dispersed them from there over the whole face of the earth. They quit building the city, 9which accordingly was called Babel, because there the Lord confused the whole world’s language and from there the Lord scattered them over the whole face of the earth. (The Berkeley Version in Modern English, Genesis 11)

古い翻訳の英語(いわゆる欽定訳1611年の一部)

And they said, Go to, let us build us a city and a tower, whose to may reach unto heaven; and let us make us a name, lest we be scattered abroad upon the face of the whole earth. 5And the Lord came down to see the city and the tower, which the children of men builded. 6And the Lord said, Behold, the people is one, and they have all one language; and this they begin to do, and now nothing will be restrained from them, which they have imagined to do. 7Go to, let us go down, and there confound their language, that they may not understand one another’s speech. 8So the Lord scattered them abroad from thence upon the face of all the earth; and they left off to build the city. 9Therefore is the name of it called Babel; because the Lord did there confound the language of all the earth and from thence did the Lord scattered them abroad upon the face of all the earth. (King James Version, Genesis, 11: 4 – 9)

[Babel < Heb. Babhel, fr. Akkadian bab-ilu, gate of god]