ポートランドだより (5                             2002. 10. 10

 日本の爽やかな秋を満喫しておられることと思います。

 ポートランドでは秋雨の季節に入ったのか、今年は雨の多い冬になるのか、雲の多い天候が続いています。気温も下がり、静岡あたりの晩秋の感じです。アパートの7階の窓から目の前の楡の大木の梢が、先端から黄葉し始めたのが楽しめます。この楡の木の高さは、10階くらいに相当しますから、30メートルくらいはあるのでしょう。道を挟んで立っている1916年建築の5階建てのレンガの寄宿舎モンゴメリ館Montgomery Courtに絡まるツタの紅葉と見事なコントラストで、初秋の風景を演出しています。

 ヤフージャパンからの要請で、静大卒業生の新井邦仁君が作ってくれた常温核融合研究所のウェブサイトがyahoo.co.jpに登録されました。「常温核融合」で検索するとこのサイトが出てきます。それをチェックする過程で、立花隆氏の「最近買った本」に僕の旧著「常温核融合の発見」(大竹出版、1997年)が取り上げられていることを知りました。多くの方に読んで頂けるのは有難いことです。

 常温核融合という名称が事実を正確に表していないことが明らかになって、もう7、8年になります。簡潔で適当な名前が見つからないので、“環境放射能の中に置かれた、水素同位体を含む固体中で起こる、核反応とそれに付随した諸現象”という注釈付きで常温核融合(Cold Fusion)を使うことにしていますが、名前に禍されての誤解が絶えないようで、正しい理解が進まないのは困ったことです。

 9月16日に3週間の慌しい日本訪問から帰って、まだ時差ぼけの残る状態で9月30日から10月3日までのアルバカーキAlbuquerqueNew Mexico)でのICENES2002に出席してきました。この会議の詳細はCFRLニュースNo.40(既刊)とNo.41に出しますが、約70名の核融合炉、核分裂炉、常温核融合などの研究者が集まった今回の会議は、エネルギー研究の全体像を把握する良い機会でした。次回の会議は、2005年にベルギーで開かれることになっています。

 アルバカーキはニューメキシコの砂漠地帯にできた300年の歴史のある町です。会場のホテルは旧市街Old Townと呼ばれる、キリスト教会を中心にした、干しレンガ造りの1階建ての家並みの一区画に隣接していて、近くに美術館、自然史博物館、原子力博物館などがあります。旧市街一帯は約100軒の土産物屋街になっていて、原住アメリカ人の伝統工芸を中心に、メキシコ料理店などがあります。教会は1706年創建以来、街の中心として活動を続けてきたもので、歴史建造物に指定されています。

 自然史博物館の呼び物の一つは、恐竜の化石です。ニューメキシコの砂漠からは、多くの恐竜の化石が発掘されていて、各種の恐竜の骨が組み立てられ、ドラマ仕立てに配置されているのは、他所では見られない展示です。ボランチアの80歳の老人が幼稚園児のグループに解説しているのを傍聴しましたが、心温まる情景でした。

 原子力博物館には、この州にあるロスアラモス研究所で研究開発された原爆、水爆関係の資料が豊富です。広島と長崎に投下された原爆の実物大模型も、その後の水爆のものと一緒に展示されています。9.11テロの影響で、町外れの空軍基地の隣にあった旧博物館から今年の5月に急遽移転してきたとかで、本格的な建物は別に建てる予定のようでした。

 科学の社会的効用は、基本的には道具と同じですから、その使用については、華々しさに目くらまされずに、原点に戻って慎重に考える必要があるでしょう。今回のICENES2002でも、原子炉から出る有害放射性廃棄物の処理が、各種の研究テーマの一つとして大きく取り上げられていました。この問題は既に原子力利用の最初から指摘されてきていたもので、何を今さら、と考える方も多いでしょうが、テロリズムとの関連でその重要性が再認識されているようです。ウランの採掘から廃棄物の処理までの一貫した工程が完成して初めて、核分裂炉によるエネルギー生産技術が完結するので、遅ればせながら最終段階の重要性が認識されたことは悪いことではありません。これに関連して、最近の原子力発電所の事故、および事故隠しの報道を思い出します。昔、原子力開発三原則が学術会議で決議されたことを思い出し、辞典で再確認しました。末尾にその解説をコピーしておきます。

 熱気球大会がアルバカーキの呼び物の一つであることが、4日の朝、いくつかの熱気球が早朝の晴れた空に浮かんでいるのを見て分かりました。5日に熱気球大会Balloon Fiestaがあり、5時のシャトルバスで見物客を会場へ運んでくれるとのことでした。気流の関係で熱気球の飛翔(浮遊?)には早朝が適しているそうです。

 週刊誌U.S. News & World Report923日号(Vol. 133, No.11)で、アメリカの大学ランク特集America’s Best Colleges, A complete guide to over 1,400 schoolsを報告しています。その中には、アメリカの249の大学を色々な基準でランク付けして、50位、100位までを表にしたものもあります。東部の有名大学が上位にあるのは、歴史の重みで仕方が無いのでしょうが、カルフォルニァの州立大学が上位に食い込んでいるのは、州の努力の結果なのでしょうか。「前書き」No.24にも書いたように、アメリカでも受験勉強の悪影響が取りざたされています。このようなランク付けとの関連も興味のあるところです。次のウェブサイトで評価のデータをみることができます。

http://www.usnews.com/usnews/edu/college/rankings/rankindex_brief.php

 

(注)原子力三原則

1954年3月、自由、改進、日本自由の3党が、突如原子炉予算を提出、可決したことに対し、4月23日日本学術会議は、原子力問題に対する政府の態度を非難、核兵器研究の拒否と、1.研究民主的な運営、2.日本国民の自主的運営、3.一切の情報の完全公開の3原則を声明、同年10月の第15回総会で可決した。この原子力三原則は、原子力基本法第1章第2条に盛り込まれ、日本の原子力開発の基本方針隣、諸外国の原子力法には見られない大きな特徴となった。(マイペディアPC Success版)