「思い出すことども」へのはしがき

 

私が生まれた1936年からの20世紀の日本の歴史は、1937年の盧溝橋事件に始まる日中戦争と、1941年の真珠湾攻撃に始まる太平洋戦争という対外戦争で特徴付けられます。最近の呼び方では15年戦争ということになるのでしょう。

世界史的には、1936年のスペイン市民戦争に始まる植民地再配分戦争と社会主義国対帝国主義国の対立激化が絡み合った東西冷戦の時代でもありました。

そんな時代を生きた一市民の生活の歴史は、せいぜい生活圏を共にした家族・友人にしか興味のないものでしょう。しかし、歴史の総体の構成部分として、一市民の生きた事実は、その意味を汲み取られることの有無とは独立して存在するものでもありましょう。

そういう意味で、個人的な記憶を記録しておくことが、まったく無意味であるわけではないと思うのです。客観的事実に主観的スクリーンのかかった記述であることを前提に、激動の20世紀後半の日本の歴史の微小断面を垣間見ていただければと思います。

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