北沢長衛小屋での停滞の一日が生んだ歌集

 

望郷

 

1.はるけき わがふるさと

  丘にのぼり われは立ちぬ

  沈む入日 目守りて

 

2.恋しき 我が故郷

  旅寝寒く 夢に立ちぬ

  老いし母の背姿

               '56.3.20

 

 

Unterlaender Heimweh

 

1. Daunten im Unterland

   da ist kalt sein

   Schlehen im Oberland,

   Trauben im Unterland,

   drunten im Unterland

   moechte wohl sein.

 

2. Drunten im Neckaltal,

   da ist's halt gut

   Ist mers da oben'rum

   manchmal an n so drum,

   kam doch allweil drunten

   gut's Blut.

 

 

彷浪の唄

 

1. そんなに お前は 何故嘆く

   草のしとねに 寝転んで

   私の言うこと お聞きあれ

   人の浮世の 見栄を捨て

 

2. 口笛吹いて 気を晴らせ

   現の夢を 見ていあれ

   草臥れ休めに 山を見て

   腹が減ったら 又歩け

 

 

Wie schoen ist es im Freien

 

   Wie schoen ist es im Freien

   Wenn unter gruenen Maien

   Wer singen all zu mall

   dass klingen Berg und Tal,

   la la la la …… la.   37     →

 

 

安曇節変え唄

 

1. 西穂登れば奥穂が招く 招くその手がジャンダルム

2. お花畑で昼寝をすれば 蝶蝶が翔んできてキスをする

3. お花畑で昼寝をすれば 可愛いあの娘の夢をみる

4. 槍や穂高は霞んで見えぬ 見えぬあたりが槍穂高

5. 槍や穂高を番兵において お花畑でキジを打つ

6. 穂高のルンゼにザイルを捌いて ヨ−デル唄えば雲が湧く

7. 一万尺でキャンプをすれば 星のランプに手が届く

8. 命捧げて恋したものを 何故に冷たい岩の肌

9. 冷たい岩小屋ビバ−クすれば 可愛いあの娘の夢を見る

                     

                     (1956.3.20)

 

後記

  山の歌を盛んに歌った一時期がありました。歌声喫茶が若者を集めていた時期と重なっていて、それよりも息が長かったような気がします。

  種々の歌集が出版されましたが、山と渓谷社のカラーブックス「山のうた」の正続2冊は、美しい写真と編集者、土橋茂子さんの気の効いた解説で、私の愛唱歌集でした。

  そのような山の歌との最初の出会いが、北沢峠の旧長衛小屋だったのです。

  3月の北沢峠での停滞の1日に、寒く煙い小屋のシュラーフの中にもぐりこんで、先輩から教わって山日記に鉛筆で書き込んだこれらの歌は、今でも口ずさむ歌の一つです。

  とくに、「放浪の歌」の素朴で哀愁に富んだ歌詞と節回しは、心に沁みる歌のナンバー10に入るでしょう。

                          (2001,11,10)