はじめに

 

静岡大学を定年退職するにあたり、2月10日に行った最終講義[「常温核融合」の物理学への道]を中心にし、これまでに諸誌紙に書いた短文をほぼ年代順にまとめてみました。静岡大学での 34 年間は、多くの人々との交流を通じて自己を形成する日々であると同時に、大学、科学、社会について学ぶ日々でもありました。

近世から現代にかけて、日本の大学、社会、国家が背負った運命は、世界史的な文脈で捉えるとき、非常に大きな意味を持っていると思われます。商品生産と金融資本主義体制が世界を席巻する過程で起こるエピソードの一典型で、それはあるでしょう。大学も社会から遊離した存在ではありえないわけで、その存在意義の真髄であるアカデミズムの育成には、教育と研究に真摯に取り組む選良の、実りの不確かな絶えざる努力が必要とされること、聖書の予言者達のそれにも比することができるでしょう。

ここに纏めた文章は、ささやかながら私の行ってきた実践の記録となっております。お世話になった方々、共に教育・研究に携わった方々、教育という営為を共に行った学生諸君に、感謝の心を込めて贈らせていただきます。教育を考える際の他山の石にして頂ければ幸いです。

[1] は、最終講義の予稿をもとに、講義記録を参考にして加筆したものです。2時間余りの講義では語り尽くせなかった部分も多く含まれています。末尾に、最終講義に際してお配りした資料も併せて収録しました。

[2] には、『静大だより』、『静岡大学学報』、『日本物理学会誌』などに書いた短い文章を収めました。教育に対する私の姿勢をお読み取り頂けるでしょう。

[3] には、著書、翻訳書、学術論文のリストを掲げてあります。論文リストの最近の部分には、投稿中のものも含まれています。論文リストからは、常温核融合研究の活き活きとした様相を読み取っていただけるでしょう。

[4] には、著者の履歴関係の事柄をまとめました。

[5] には、英文の拙著  Discovery of the Cold Fusion Phenomenon について、ドイツ人の Dieter Britz が書いた書評の該当部分を収録いたしました。

古い卒業記念アルバムからの写真を、所々の余白に挿入しました。

なお、最終講義の準備、実行、記録には、当研究室の大学院生、荒井邦仁、工藤人、藤井光貴、吉本光輝の四君の協力を得ました。感謝いたします。

最後に、著者の活動をこれまで導き、支え、励まして下さった多くの先輩、同僚、学生のみなさん、そして家族に、改めて深い感謝の気持ちを捧げます。

 

1999年3月31日

小島英夫