固体‐核物理学の展開

 

常温核融合現象が固体中で起こる核反応を伴う現象であることが明らかになってきて、その概念的な把握が問題解決の決め手であると気付かれたのは、そんなに遅いことではなかった。しかし、われわれが「フライシュマンの仮定」と呼んでいる、固体中でd-d 融合反応の確率が何十桁も高くなるような仮説に、多くの研究者が捉われている間は、常温核融合現象が単なる2体問題、3体問題の話ではなく、固体内の新しい状態に関係した現象であるという認識、あるいは考え方は、ほんの少数意見として隅に追いやられていた感がある。TNCFモデルを引き継いだ、2000年以来のわが研究所を中心とする研究によって、常温核融合現象が、これまで気付かれなかった固体内の新しい状態の存在を探求する糸口を与えるものであることが、はっきりしてきたと言えるだろう。

その成果は、不十分ながら、拙著「『常温核融合』を科学する−現象の実像と機構の解明−」(工学社、20058月)に結実している。本稿では、これらの事情をまとめて解説する。(未完)